執筆者:荒木 杏奈
アンナアドバイザーズ株式会社
「税法が改正され、アメリカの不動産が節税対策に使えなくなった」
このような話を耳にしたことはありませんか。
節税対策に使えないということは、アメリカ不動産を買うメリットはもうなくなってしまったのでしょうか?
今回は、アメリカ不動産が節税につながっていた仕組みとなぜ税法改正によってつかえなくなってしまったのかについて解説していきます。
1. 海外不動産投資をする目的
海外不動産投資をする人の目的は大きく3つに分かれています。
・リターンを求めて
・好きな地域の不動産だから
・節税のため
王道はやはりリターンを求めて不動産投資をする人でしょう。新興国などであればリスクは高くなりますが、その分高いリターンが見込めます。また先進国はリスクが低く安定したリターンが見込める上に、国によっては中古市場が確立しているため転売によるリターンを狙うことも可能です。
次に、意外かもしれませんが、その国・地域が好きという理由で不動産投資を行う人もいます。よくある例ですと、ハワイなどのリゾート地などに不動産を購入する人です。利回りはそれほど高くなく、不動産の価値が上がるということもそれほど考えにくいのですが、人気の不動産となっています。
そして最後が、節税のために行う不動産投資です。これまで「節税といえば海外不動産投資」と言われ、その高い効果を不動産業者が大々的に宣伝していたこともあり、多くの富裕層がこぞって節税目的で海外不動産投資をしていました。しかし、2021年に法改正が行われ、現在は個人が海外不動産投資によって節税することはできなくなってしまったのです。
2. 海外不動産投資で節税する方法
法改正以前であれな、海外不動産を利用した節税は、数ある節税方法の中でも特に効果の大きいものでした。では、なぜ海外不動産投資は節税効果が高かったのでしょうか。
海外不動産が節税につながっていた理由を把握するためには、「減価償却」と「損益通算」の2つについて知る必要があります。この2つの専門的な言葉が難しいため不動産投資を諦めたという声も耳にするので、ここで簡単に説明していきたいと思います。
2-1. 減価償却とは
減価償却という字面だけでもう難しそうですよね。一言で説明すると、“価格のすごく高いものを買ったときに、一度に費用(=利益のために使ったお金)としてしまうのではなく、使用できそうな年数で割って費用として計上しようという考え方”になります。
例えば、1億円の設備を購入したとき、購入した年に1億円すべてを費用として計上してしまうと、その年の利益が少なくなり、赤字になる可能性が高くなってしまいます。実際は、購入した設備は10年間にわたって使い続けるというのであれば、現実に則した費用の計上の仕方、つまり1億円を10年で割り、1年に1,000万円ずつを10年にわたって費用として計上できるようにしようというのが減価償却の考え方になります。
普段はあまり目にする言葉ではないため、馴染みがないかもしれませんが、不動産投資で利益をきちんとシミュレーションするためには知っておくべき知識になります。
2-2. 損益通算とは
損益通算は、所得の赤字を黒字と相殺することを言います。
不動産投資の場合は、「不動産による所得の赤字」と「自身の給与所得」とを相殺(=所得の圧縮)することが可能になります。
不動産投資では、不動産の購入時にかかった費用が減価償却費として数年にわたって引かれるため、購入から数年は不動産による所得が赤字になるケースがあります。この不動産による所得の赤字分が「自身の給与所得」から引かれるため、所得の合計額が減り、その合計額のみにしか税金がかからないため節税になるのです。これが不動産投資による節税の仕組みになります。
わかりやすく実際の数字の例を見ていきましょう。
Aさんは1億円で海外の不動産を購入しました。減価償却により10年間かけて費用として計上していくため、毎年1,000万円が費用として計上されます。一方で不動産を所有していることによる家賃収入が年600万円、諸経費が年100万円かかるとすると、不動産による所得の合計は600万円−100万円−1,000万円でマイナス500万円の赤字になります。
自身の給与所得が1,000万円だとすると、不動産による所得のマイナス500万円を引いて見かけ上の所得は500万円になるわけです。
よって、不動産投資をしていなければ給与所得1,000万円に課税され、税率33%で330万円の税金が発生していたところが、不動産の赤字と損益通算することで所得は500万円となり、税率20%で100万円の税金だけ払えばいいということになります。つまり減価償却費が高いほど、圧縮される所得は大きくなるのです。
3. アメリカ不動産投資が節税対策に人気だった理由
節税目的の海外不動産投資では、アメリカの不動産が特に人気でした。
日本の不動産と「減価償却の期間」と「建物比率」が大きく異なるためです。
3-1. 減価償却の期間が異なる
アメリカ不動産の減価償却期間は国内不動産の減価償却期間と比較すると短く設定されています。ということは、不動産購入時の費用を分割する年数が少なくなるため、減価償却費が大きくなり、不動産所得が赤字になりやすいのです。
3-2. 建物比率が異なる
建物比率と言われても、不動産を購入したことがある人じゃないとピンときませんよね。
不動産の購入金額は建物と土地の金額に分かれ、減価償却の対象となるのは建物部分の金額のみになります。
つまり、購入金額に占める建物の割合が大きいほど減価償却費は高くなるのです。
この割合は不動産の種類によって異なるのですが、日本で多く見られる建物の比率は20~30%程度。つまり、土地のほうが高いのです。一方、アメリカの不動産ですと50~80%と土地に比べて建物の比率がかなり高くなるのです。
アメリカの不動産は減価償却の期間が短く、建物比率が高いため日本と違い減価償却費が高くなるのです。これがアメリカの不動産が節税対策に人気だった理由です。
しかし、冒頭にも述べたように海外不動産を活用した不動産投資は、令和3年以降使えなくなっています。法改正によって、令和3年以降の個人の確定申告における海外不動産の減価償却費計上による赤字申告ができなくなり、不動産所得の赤字を損益通算できなくなってしまったのです。
4. これからのアメリカ不動産投資
「節税が使えなくなったいま、アメリカの不動産投資の人気はなくなってしまったの?」
といった質問をよくいただきます。
たしかに少なからず投資を行う人は減ってしまいましたが、それでもいまだに「リターンを求める人」と「好きな国・地域だから」といった理由で不動産投資を行っている人からは根強い人気があります。
ハワイ州やニューヨーク州の不動産ですと利回りはよくないですが、やはり憧れから購入される方はいます。
利回り狙いの方ですと、テキサス州の不動産が今人気となっています。
テスラの工場が移動したこともあり、今後人口が増えることが予想されているためです。
また、コロナの影響により高いオフィスを構えるのではなく安い所に事務所を構えるという動きがアメリカで出てきていることも大きな要因です。
場所を選べば5%の利回りがある不動産もあるので、アメリカの不動産に興味のある方にはおすすめをしています。
アンナ社長YouTubeチャンネル
執筆者:荒木 杏奈
アンナアドバイザーズ株式会社
日本とカンボジアを拠点に、国内・海外不動産業を展開。
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荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資