執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

2025年5月30日、東京・ブルガリホテルにて開催された国際投資イベントにお招きいただき、出席いたしました。本イベントは、シンガポール当局の正式認可を受けたファンドが主催するものです。
なかでも特筆すべきは、カンボジア王国のソク・チェンダ副首相(Sok Chenda Sophea)からカンボジアの投資環境や経済の将来について、直接ご意見を伺う貴重な機会に恵まれました。その後の会食の席でも、率直なお話をさせていただきました。
さらに同日、首相官邸において石破茂内閣総理大臣とカンボジアのフン・マネット首相による首脳会談が実施され、両国の新たな経済連携の指針として「日・カンボジア経済共創パッケージ」が発表されました。
外交と民間の現場が同時に動いたこの一日は、日・カンボジア関係の転機であると同時に、私たち民間企業にとっても、より大きな使命と責任を感じさせる瞬間でした。
ソク・チェンダ副首相との意見交換
今回の投資イベントにおいて、私にとって何よりも印象的だったのは、カンボジア王国のソク・チェンダ副首相との直接の意見交換の機会です。副首相は現在、経済財政政策の要としてカンボジアの持続的成長をけん引しておられ、日本企業や民間セクターに対しても強い関心と期待を寄せています。
主催者を通じてご紹介いただいた際、副首相より「カンボジアへの投資を実践している企業の声を、ぜひ参加者に届けてほしい」とのお言葉を頂戴しました。「我々は『支援』ではなく『投資』を必要としている。持続可能な成長には、貴社のようなパートナーが不可欠だ」と、力強く語られたことが強く心に残っています。
ご厚意によりスピーチの機会をいただき、私たちが現地で取り組んでいる事業の実例や、カンボジアの都市化・インフラ整備・人的資源への期待といった視点から、現地の可能性を参加者に共有させていただきました。
その後の会食では、副首相の正面に席をご用意いただき、限られた時間ではありながらも、率直で実務的な意見交換を行うことができました。副首相は、制度整備・投資誘致・若年層の育成といった課題に非常に明快な見解をお持ちであり、経済政策の核心においても私たち民間企業が果たす役割を極めて具体的に捉えておられました。
この対話を通じて感じたのは、カンボジア政府の本気度、そして変革へのスピード感です。副首相の言葉には、従来の「援助対象国」としてのカンボジアではなく、共に未来を築く「対等な経済パートナー」としての姿勢が明確に表れていました。
私たちが目指すのは、単なるビジネスの展開ではなく、現地社会とともに成長する“共創”の関係です。その意味で、副首相との意見交換は、私たちの事業ビジョンが正しい方向にあることを再確認させてくれる、かけがえのない時間となりました。
日・カンボジア首脳会談と「経済共創パッケージ」
副首相との対話と並んで、2025年5月30日が国際的に大きな節目となった理由が、まさに同日に行われた日・カンボジア首脳会談の開催と、その場で発表された「経済共創パッケージ」の合意です。
この首脳会談では、石破茂内閣総理大臣とカンボジアのフン・マネット首相が一堂に会し、両国のパートナーシップを「特別な戦略的パートナーシップ」へと格上げすることを確認。外交・安全保障から教育、人材育成、インフラ整備、ビジネス環境改革に至るまで、多岐にわたる協力分野が網羅されました。
なかでも注目すべきは、民間投資と経済成長を軸に据えた「日・カンボジア経済共創パッケージ」の策定です。これは、開発途上国支援という従来の枠組みを超え、両国が“共創”という対等な立場で経済連携を深める新たな枠組みです。
このパッケージでは、以下の4つの重点分野が明確に示されました。
- ビジネス環境の改善
制度改革・税制透明化・行政手続きの簡素化など、外国企業にとって参入しやすい環境づくりを支援。 - インフラ・デジタル化支援
道路、港湾、物流、エネルギー分野における整備促進と、電子政府やICT分野の人材育成。 - スタートアップ・中小企業連携
両国のスタートアップ支援機関やアクセラレーターを結ぶ、起業支援のための国際的なエコシステムづくり。 - ビジネスミッションの派遣・交流
民間企業による現地視察や投資検討の場を政府が支援し、具体的な案件形成を後押し。
これは単なる政府間合意ではなく、私たち民間企業にとっても、明確な方向性と実務的な協力の枠組みを示すものです。とりわけ不動産、都市開発、サプライチェーン整備といった分野で活動する企業にとっては、事業計画の検証や拡張に直結する重要なシグナルだと言えるでしょう。
副首相との意見交換でも、「経済共創パッケージにおける民間ビジネスの役割は極めて大きい」との認識が強く示されました。これは、政府主導の外交を“現場で形にする”実行主体が、まさに私たちであるというメッセージでもあります。
カンボジアは今、国家として「支援される側」から「投資される市場」への転換点に立っています。この共創パッケージは、その大きな一歩を象徴していると確信しています。
「支援」から「共創」へ ─ 投資家・企業の責任と可能性
カンボジア副首相との意見交換、そして日・カンボジア首脳会談で掲げられた「経済共創パッケージ」に共通していたのは、「支援」という一方向の関係ではなく、「共創」による双方向の経済関係への転換という強い意思でした。
これは、単なる言葉の置き換えではありません。国際社会が長年行ってきた「援助型」の開発支援から一歩進み、今や新興国は対等なパートナーとしての投資を求めています。とりわけカンボジアのように、若年人口が多く、都市化と経済成長が加速している国では、外資系企業の持つノウハウ、資本、技術が国家発展の中核を担う時代が訪れています。
その意味で、今後の企業活動には、単なる市場参入や利益追求を超えた視点が不可欠です。地域社会に根差し、雇用を生み、人材を育て、都市や生活インフラをともに築いていく──そうした姿勢こそが、現地政府との信頼関係を築き、持続可能な成長を実現する鍵となります。
私たちが取り組む不動産や都市開発の分野でも同様です。建物を建てるだけでは、価値は生まれません。誰が使い、どのように生活し、どんな未来を描くのか。そこに現地の声が反映されてこそ、本当の意味での“共創”が成立します。
また、こうした共創型投資には、リスクとリターンの新たな視点も必要です。法制度やインフラが未整備な側面もありますが、それを改善するための政策支援が、今回の経済共創パッケージに明記されています。すなわち、民間の挑戦を公的支援が後押しする「官民一体」の成長モデルが動き始めたのです。
今後、私たち日本企業に求められるのは、「先駆者」としての覚悟です。誰かが整えた舞台に立つのではなく、自らがその舞台をつくり、共演者を増やしていく。そうした企業姿勢が、次の10年の東南アジア戦略を左右すると言っても過言ではありません。
「支援する側」から「共につくる側」へ。
それは責任の大きさを意味する一方で、可能性の広がりでもあります。
この新しい枠組みの中で、私たちは一企業として何ができるのか──今、その問いに向き合う時が来ています。
【まとめ】未来への道筋を共に描く
2025年5月30日という一日は、私たちにとってただのイベント参加や外交ニュースにとどまるものではありませんでした。カンボジア副首相との直接の意見交換、そして両国の首脳による歴史的な合意——そのすべてが、「未来を共につくる」という強いメッセージを発していたように感じます。
これからの時代、国境を越えたビジネスは「機会を得る」ものから「価値をともにつくる」ものへと変わっていきます。特に、制度・社会インフラの整備が進む東南アジア諸国では、民間企業の創意と挑戦が、その国の発展の一翼を担うのです。
カンボジアという国は、今、まさに可能性の入口に立っています。そこに真摯に向き合い、現地の人々と同じ目線で、持続可能な未来を描いていくこと。それが私たちに託された責任であり、また、企業としての存在価値でもあります。
これからも、「共創」というキーワードのもとに、一つひとつの対話と実践を積み重ねながら、新しい経済のかたちを築いていきたい——そう強く思う一日となりました。
未来への道筋は、誰かに委ねるものではなく、共に歩み、共に描くもの。
この歩みを、志ある多くの仲間とともに進めていけることを、心から願っています。
参考
■外務省:日・カンボジア首脳会談及びワーキング・ディナー
■日・カンボジア共同声明(英文(PDF)/ 和文仮訳(PDF))
■経済共創パッケージ(英文(PDF)/ 和文仮訳(PDF))
■首相官邸 総理の1日:日・カンボジア首脳会談



荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資