ベトナム不動産は下落した過去あり!?ベトナム不動産投資の最新事情を究明

執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

ベトナム不動産市場では2015年に外国人による投資が解禁されています。
解禁以降、好調に成長したかに思われたベトナム不動産市場ですが、つい最近まで価格は大きく下落していました。

今回は、「ベトナム不動産の大暴落」「未曽有のベトナム不動産危機」とまでいわれた当国の不動産の価格下落について、その原因を詳しく解説します
今後のベトナム不動産市場の見通しについてもご紹介していますので、ぜひ最後までお付き合いください。

2015年の海外資本受け入れ以降ベトナム不動産の価格は好調に推移

ベトナムでは、2015年に外国人による不動産投資が解禁されました。
外資の流入もあり、解禁以降、ベトナムの不動産価格は堅調な上昇をたどりました
下のグラフはベトナム・ホーチミンの住宅の価格変動を示したものです。

※青線が実際の価格変動率、赤線がインフレ調整後の価格変動率を示します。
出典:Global Property Guide

2019年ごろにピークを迎えた不動産価格が、2020年ごろに下降に転じています。再び上昇しますが、2023年ごろにもマイナスを示しています。
この下降線の原因が何であるのか、続く項目で見ていきましょう

ベトナム不動産価格が下落した原因3選

前述した通り、ベトナムの不動産価格は2020年ごろから数年間にわたって下落を繰り返しています。
ここでは、ベトナム不動産の価格が下落した原因を詳しくご説明します。

新型コロナウイルス感染症で住宅購入意欲が下降

ベトナムでは2015年より外資の流入による市場の活性化もあり、住宅(一軒家)購買意欲は高まっていました。
ところが、2020年第1四半期ごろの新型コロナウイルス感染症拡大によって、流れは急変します。
未知のウイルスが引き起こしたパンデミックによって、一転してベトナム国内の住宅需要は下降しました

ただし、コロナによる打撃はインパクトこそ大きかったものの、2020〜2021年もベトナムのGDP成長率は緩やかに上昇しています

コロナ禍から回復したかのように見えたベトナム不動産市場ですが、2022年に再び大きな転機が訪れます。

2022年に続発したベトナム不動産業界の大事件

ベトナム不動産の価格下落の原因は、コロナ禍以上に業界の不正が大きなウェイトを占めているといわれています。
2022年に業界で発生した大事件を機に、多くの業者による不正が明るみに出ました。
ベトナム国内を震撼させ、業界のイメージダウンの引き金にもなった2つの事件について見ていきましょう。

事件① | 新興不動産会長による株価操作・情報隠蔽

2022年3月、急成長を遂げていた新興不動産企業のFCLグループで、当時会長であったチン・バン・クエット氏が逮捕・起訴されました。
クエット容疑者は複数の容疑者と共謀のうえ、自社株の売買を繰り返す株価操作で不当に利益を得たとのことです。また、不正行為の隠蔽工作を行ったとされる容疑でも罪に問われています。

クエット容疑者は2022年1月に自社が保有する7,480万株を売却しましたが、証券会社に届け出ない不正な売却でした。
FCLグループはベトナム全土に不動産プロジェクトを展開しており、クエット容疑者の逮捕は投資家にも大きな衝撃を与えました。

業界の旗手と目されていたクエット容疑者の逮捕によって市場は混乱し、株式や不動産価格に多大な損失が生じたと報じられています

事件② | 「不動産女王」が辿った衝撃的な末路

2022年10月には、ベトナムの大手不動産開発会社VTPグループ(Van Thinh Phat Group)の元会長チュオン・ミー・ラン氏が逮捕・起訴されました。
ラン容疑者は、自社と関係が密接なサイゴン商業銀行(SCB)に違法な融資を行わせたことなどで罪に問われています。
VTPグループは不動産投資と称して不正に社債を発行し、SCBを介して国民や投資家から資金を調達しました。
推定被害総額は270億ドル(約2兆4,000億円)にも上ると報じられています。
史上最高クラスの被害が発生した当事件で、ラン容疑者は収賄・横領・銀行融資規制違反により有罪となりました。

裁判の過程でラン被告以外の84人に執行猶予や終身刑などさまざまな罪状が課されたほか、ラン被告に下された判決は死刑という極めて重いものでした。
ラン被告の親族は、判決を不服として上告する方針のようです。
「不動産女王」とも称された人物に対する死刑という判決には、ベトナム当局による汚職取り締まりの強い意思がうかがえます

景気低迷で廃業する不動産業者が続出

2022年に立て続けに発生したベトナム不動産業界の大物による株式操作・違法融資など一連の事件は、業界内外に大きく波及しました。
2社による大規模な違法行為のほかにも、不動産業者による不正が次々に明るみになっています

一般消費者や投資家が、業界全体に不信感を覚えたのは想像に難くありません。
一連の事件を機に、多くの不動産プロジェクトは中止に追い込まれ、ベトナム不動産市場は大きな打撃を受けます。

また、時期を同じくして景気の回復が遅れていた中国への輸出が減少したことからも、ベトナムの景気も低迷しました。
景気が低迷し、住宅ローンの金利が9%から13%に引き上げられた点も業界への逆風となりました。
政府が規制を強化したことで銀行融資を受けられず、資金繰りが悪化して廃業する業者も続出しています
それまで急上昇していた不動産価格が、一連の事件によって落ち込んだことで「ベトナム不動産のバブル崩壊」などとささやかれたほどです。

2023年ごろのベトナム不動産市場の見通しは悲観的

2023年に入っても、ベトナム不動産市場には回復の兆しが見えず、先行き不透明な状況が続きます。
多くの有識者・専門家が2023年ごろのベトナム不動産市場について、悲観的な見解を示しました
現在も、ネットニュースなどで当時の情勢を分析した記事を閲覧できますが、ほとんどの記事の見解はシビアなものです。

とある報道によると、2023年当時の不動産価格は30%下落し、住宅需要は50〜90%も低下したといわれています。
業界で相次いだ不正事件や景気の低迷による価格の下落は2023年にも尾を引くこととなり、ベトナム不動産市場において、まさに「冬の時代」だったといえるでしょう。

2024年のベトナム不動産市場は回復傾向

2022年の大規模な事件や景気の低迷で、価格が落ち込んでいたベトナム不動産市場ですが、2024年は回復の傾向にあります。
政府が不動産業者に対して社債償還や銀行借入利息の猶予を設けるといった支援策を打ち出したことで、業者の経営状態は改善が見られました。
また、銀行金利の引き下げによって、投資家が融資を受けやすくなり住宅購買意欲は上昇しています。

ベトナム経済・ビジネス情報サイト「VeitBiz」(運営企業ONE-VALUE株式会社) によれば、2024年第1四半期(1〜3月)には、取引量が10〜50%増加したと業者の17%が回答しています。

政府の新法案「土地改正法」が賛成多数で可決され、業界の健全化や活性化が期待されるのも大きなポイントです。
回復傾向にあるベトナム不動産市場ですが、2025年にはさらに活性化する可能性も示唆されています。
上昇の機運が高まっているベトナム不動産に、早い段階から参入しておくことは、決して悪い決断とはいえないでしょう。

ベトナム不動産のメリット5選

2024年現在は回復の兆しが見えているベトナム不動産市場ですが、ベトナム不動産投資には多くのメリットがあります
ここでは、ベトナム不動産投資のメリットを大きく5つに分けて解説します。

周辺国よりも不動産価格が安価

ベトナムはアジア諸国と比較して、不動産価格が安いという特徴があります。
下のグラフは、東京を100として世界の各都市の不動産価格を比較したものです。

出典:一般社団法人 日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」(2024年4月現在)

東京と比較して、ホーチミンの指数は約4分の1となっており、アジア諸国でもかなり安価な部類に属しています。

不動産価格が安いため、少ない資本でも物件を購入しやすいというメリットがあります。

不動産の運用コストが低価格

ベトナムでは日本でいう固定資産税が設定されていません。
また、不動産収益にかかる個人の所得税も5%に固定されています。
日本では累進課税制度で5〜45%の所得税が設定されているのに加えて、家賃収入が195万円を超える場合はさらに10%の所得税が課せられます

ベトナムは日本よりも税金が安く、低コストでの不動産運用が可能です

想定利回りが約3~5%とアジア諸国でも高水準

ベトナム不動産の利回りは3〜5%となっており、日本よりも高い水準です。
以下のグラフでは、ハノイと周辺国の主要都市の利回りを比較しています。

出典:Global Property Guide

グラフが示すように、ハノイの不動産利回りは日本以上で、周辺の新興国とも遜色がありません。
不動産価格の安さも併せて考えると、ベトナム不動産投資での費用対効果はアジア諸国のなかでも高いといえるでしょう。

GDP成長率が好調で不動産価格が上昇傾向

ベトナムでは、以下のグラフのようにGDP成長率が上昇を続けています。

出典:世界の経済ネタ帳

2020年ごろのコロナ禍の影響で一時的に低下していますが、それでも成長率がプラスであることに変わりありません。
成長を続ける好調な経済に支えられて不動産価格も上昇しており、投資の対象として魅力的なものになっています。

災害リスクが少ないという地理的な好条件

日本は災害大国といわれており、地震による建物の損壊や、台風・津波・洪水による水害など不動産運用における脅威が多くあります。
地域によっては火山噴火など、災害による損害は多岐にわたります。

ベトナムは地震や台風の心配がほとんどなく、火山もありません。
日本と比較して災害リスクが非常に少ない地理的条件も、ベトナム不動産の魅力のひとつです。

ベトナム不動産のリスク・デメリット3選

メリットずくめに思われるベトナム不動産投資にも、リスクやデメリットもあります。
リスク・デメリットについても正しく理解しておきましょう。

外国人の不動産購入に対する制限が厳格

ベトナムは社会主義国家であるため、外国人の経済活動にも厳格な側面があります。
ベトナムでは土地の所有権は国家に帰属し、土地に関する権利は国が一括して管理するというスタンスが採られています。

物件を購入した場合でも、あくまで物件の「使用権」を得ただけであり、「所有権」は国家にあるという考え方が基本です。
ベトナムでは、物件の購入=物件の所有ではないことを覚えておきましょう。
そのほかにも、外国人の物件購入には以下のような制限が設けられています。

  • 購入できる物件の割合は1棟あたり250戸までとする
  • 物件の使用権は50年に限定する(一度だけ50年延長可)
  • 中古物件の購入は前オーナーが外国人の場合に限る
  • 個人の事業用物件の購入を禁ずる
  • 法人が住宅を購入する際の使途は社宅に限定する

規制が多く、投資における自由度は高くないと感じられるかもしれません。

建物の完成度や耐久面に対する問題

価格が上昇しているベトナム不動産ですが、日本と比べると建築技術の水準はあまり高くないというのが現実です。
一見すると高級な物件でも、建築技術が甘く、年月が経つにつれて劣化が著しくなるケースもあります。
施工業者によって、物件の完成度に差があるのはリスクといえます。

ベトナムで物件を探す際は、物件そのものの良し悪しだけでなく、デベロッパーや建設業者を慎重に検討する必要があります

海外への送金手続きが困難

ベトナムは社会主義国家であるため、個人の資金管理に対しても厳格な傾向があります。
ベトナムから国外に送金をする際には、多くの書類と複雑な手続きが必要なので要注意です。

海外の送金に必要な種類には主に以下のようなものがあります。

  • 権利書
  • 納税証明書
  • 賃貸許可書
  • 購入許可書
  • 家賃収入証明書

手続きが複雑なので、書類の発行は税理士に依頼するケースが多いのですが、その分の費用もかさんでしまいます
なお、デベロッパーによっては権利書の発行に対応していないこともあるので、事前に確認したほうがよいでしょう。

ベトナム不動産における3大おすすめエリア

メリット・デメリットの両方が存在するベトナム不動産投資ですが、物件のエリアも成功を左右します
ここでは、ベトナム不動産投資で必ず押さえておきたいエリアを厳選して解説します。

ホーチミン | ベトナム国内最大級の商業都市

ホーチミンはベトナムの経済活動の要となる都市で、国内でも最大級の規模を誇ります。
多数の海外企業が進出しており、ビジネスにおいても中心的存在です。
外国人労働者向けの高級コンドミニアムも数多く建設されており、豊富な住宅需要を期待できます

近年は首都ハノイ以上に発展しているといわれており、ベトナムの副都心としてますます重要性が増しています。

ハノイ | 大使館などが集中するベトナムの首

ハノイはベトナムの首都で、行政府や大使館など政治の重要拠点が点在するエリアです。
政治の中枢を担っており、フランス統治時代の名残から、芸術もさかんです。
日本人大使館のある高級住宅地のバーディン区や、大学のあるコウザイ区などの物件が人気を集めています

近年はホーチミンが台頭していますが、ハノイも国内の重要都市には変わりありません。

ダナン | 国内屈指のリゾート地

ダナンは、米雑誌「フォーブス」が「世界の魅力的なビーチ6選」として取り上げたこともあるミーケビーチを擁する地です。

国内屈指のリゾート地で、観光客向けの高級ホテルやおしゃれなレストラン・カフェが多くあります。
近年は魅力的なロケーションに惹かれて、ダナンに拠点を置く海外企業も増加傾向です。

観光の目玉・ビジネスの新拠点といった役割から、ホーチミン・ハノイに次ぐ投資対象として注目を集めています

ベトナム不動産で予想される失敗例

ベトナムの不動産業界には特徴的な風土があり、事情を熟知しないまま物件を購入すると、思わぬ落とし穴に陥る可能性があります。
ここでは、ベトナムで不動産投資をする際に、失敗の原因となりうる事例を3つ取り上げます。

人気エリアの物件が必ずしも「アタリ」ではないケース

先ほど、ベトナム国内のおすすめエリアをご紹介しましたが、立地だけで物件の良し悪しを判断するのは得策ではありません。

「ホーチミンは爆伸びしてる」
「ハノイはやはり手堅い」
「ダナンは大穴だから即買うべき」


こういった希望的観測は業者によるセールストークも含んでいます。
業者のトークを鵜呑みにせず、物件を直に判断して良し悪しを見極めるのが何よりも重要です
可能であれば、現地に足を運んでご自身の目で物件を確かめるのが理想といえます。

物件を購入したのに工事が中断して「資本金がパー」

ベトナム不動産業界では、デベロッパーが少額の資本で物件の建設を開始するプレビルド方式が多く採用されています。
デベロッパーは少額の資本のみを出資し、銀行の融資や投資家からの資金・不動産収益で残額を補填するという方式です。

デベロッパーが建設資金を回収できなかった場合、担当業者の倒産などで物件の工事が中断するリスクがあります。
中小のデベロッパーは資金繰りに陥るケースも少なくなく、なかには工事の中断ありきの詐欺業者も存在します。
物件の建設が頓挫すると、支払った金額は戻ってこず、出資金を回収できません

ベトナム不動産で物件を購入する際は、海外系の大手デベロッパーや信頼度の高い業者を選ぶことが重要です

購入した物件が「欠陥住宅」

上述したように、ベトナムの建設業者の技術力にはばらつきがあります。
一見、問題なさそうな仕上がりですが、建築基準を満たしていない「欠陥住宅」だったというケースも考えられるのです。

建築基準を満たしていない工法であるため、年月が経過すると劣化が激しくなる場合もあります。

ベトナム不動産投資では、日本以上にデベロッパーや施工業者の質を見抜く観察眼が求められるといえます。

ベトナム不動産投資の成功には優良業者選びが不可欠

前述したように、ベトナム不動産業界には、経営が不安定な業者や少数ながら詐欺業者が存在します。
2022年に相次いだ事件のように、大手業者であっても不正を働くケースもあります
共産党による専政が続くベトナムでは、役人の汚職も後を絶たず、カントリーリスクが高いのも現実です。

とはいえ、ベトナム不動産業界にも優良業者は数多く存在します。
ベトナム不動産投資のメリットを最大限に活かすためには、信頼できる業者を選ぶことが何よりも重要です

アンナアドバイザーズは2024年よりベトナム不動産市場に参入

弊社はベトナムの隣国・カンボジアで長年にわたって不動産を仲介してまいりました
日本語に完全対応したきめ細かなサービスで、多くのお客様に満足いただける物件をご案内できたとの自負がございます。

2024年より、弊社はカンボジアにおける豊富な実績をもとに、ベトナム不動産の取り扱いも開始しました。
代表を含むスタッフが現地を直接視察しており、厳正なジャッジのもと、弊社の判断基準に達した物件のみを仲介いたします
現地に根付いた日本人業者とも提携しており、表からは見えづらい物件ごとの細かい事情についても把握しております。

ベトナム不動産についての解説や、現地視察の様子・おすすめ物件のご紹介などは代表のYouTubeチャンネルでも視聴可能です。
ベトナム不動産で業者選びにお困りの方は、ぜひ弊社をご用命ください。

まとめ

ベトナムではコロナ禍や大手企業の不正によって、一時的に不動産価格が下落しました
業界全体が危機的状況にさらされていましたが、2024年現在は復調の兆しが見えています。
下降をバネに業界が活性化するという分析もあります。

上昇傾向にあるベトナム不動産に、早い段階で参入してみてはいかがでしょうか

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荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
   はじめての海外不動産投資