アンナアドバイザーズ株式会社
海外不動産投資では、耐用年数の短さを利用して原価償却を計上し、税の負担を減らす節税対策が注目を浴びていました。
しかし、2020年の税制の改正でこのスキームに制限がかかりました。個人が海外不動産の損失を損益通算できないようになってしまいました。
では今後は、節税に関してどのような対策を取れば良いのでしょうか。
今回は、注意すべきポイントや今後の運用に関して解説します。
1. 海外不動産投資に課される税金
海外不動産投資に関する税金は、不動産の取得時・保有時・譲渡時の3つに分けて考える必要があります。国によってかかる税金は変わってきますが、基本的にこの3つのタイミングでは税金がかかる場合がほとんどですので、抑えておきましょう。
(1) 不動産取得にかかる税金
国内では、不動産取得時に不動産取得税・登録免許税などがかかりますが、海外不動産において、現地の物件取得に日本から不動産取得税がかかることはありません。
一方で、日本・現地ともにかかる税金があります。
例を挙げると、固定資産税がかかる国で物件を購入した場合の固定資産税などがあります。現地でかかる固定資産税について精算する必要が出てきます。
国によって、かかる税金・税率なども異なりますので、取得前に注意が必要です。
(2) 不動産保有にかかる税金
物件を所有し、運用する際にもかかる税金があります。
代表的なものとしては、不動産の運用益に対する所得税や住民税です。海外不動産投資でも日本の不動産投資の同じように、これらの税金が課税されます。
なぜなら、海外不動産投資によって得た利益も日本国内で所得と見なされるからです。
よって、海外不動産投資でも日本の所得税や住民税が発生する点を理解しましょう。
また、海外ではほとんどの国で固定資産税がかかりますので、注意しなければなりません。固定資産税の税率などは国によって異なるため、あらかじめ把握しておくことが必要です。
税率は突然変更がある場合もありますので、最新の状況を常に調べておく必要があります。事前にその国でどのような税金がかかるかを理解しておきましょう。
なお、家賃収入を得た現地の銀行口座から、日本に送金しない場合であっても、確定申告は必要ですので、覚えておきましょう。
基本的に海外不動産投資では、日本と現地双方で税金を納める必要がありますので、自身の投資先の国に精通している・実績のある税理士などに相談しましょう。
(3) 不動産譲渡時にかかる税金
海外不動産の譲渡に関しても、譲渡所得税がかかります。
ただし、二国間租税条約を締結している国に関しては、控除の対象となりますので、二重課税が掛からないような仕組みもあります。
不動産の売却によって譲渡所得税が掛かる国、掛からない国様々なパターンが出てくる可能性がありますので、事前の確認が必要です。
保有している物件が値上がりし利益が見込めるようになっても、税金に関して理解しておかないと損益計算に影響が出てきますので、しっかりと把握しておきましょう。
2. 海外不動産投資を活用した節税効果
ここまで、海外不動産投資にかかる税金について整理しました。
では、2020年の税法改正まで、海外不動産に投資で、どのような節税メリットを享受できていたのでしょうか?
税法改正後のルールなどの理解にも繋がりますので、把握しておきましょう。
(1) 減価償却によるメリット
海外の物件であっても日本の税制が適応される為、海外不動産の特徴と日本の税制にズレが生じることで節税対策に利用することが可能でした。具体的に解説します。
日本の不動産の場合、建物の減価償却耐用年数は、木造は22年・鉄筋コンクリートで47年です。
しかし、海外では築年数100年を超えるような物件も多く、価値も下がりにくいのが特徴です。
この、海外不動産の「寿命の長さ」に日本の税制が適応されることが問題点とされ、税法の改正のきっかけとなりました。
先程ご紹介した日本の減価償却耐用年数は、新築で購入した場合の法定耐用年数です。
よって、中古で購入した場合は、「簡便法」という計算を用いるケースがほとんどです。
「簡便法」の計算方式は以下の通りです。
・法定耐用年数の全部を経過した資産=法定耐用年数×0.2
・法定耐用年数の一部を経過した資産=(法定耐用年数ー経過年数)+経過年数×0.2
つまり簡便法では、22年を経過している木造の不動産は全て耐用年数は4年になります。
減価償却期間が短いということは、短期間で大きな損失を計上できることになります。
中古物件の需要が多く、価値も高いアメリカやイギリスなどの海外先進国の物件では特にこのスキームが適用できる場合が多く、節税を目的とした投資が行われてきました。
特に海外不動産に投資を検討される方の多くは富裕層で、高い給与所得を得ているケースがほとんどです。
この損失計上を目的として個人所得を大幅に節税する投資が行われていたのです。
(2) 損失計上によるメリット
2020年の税法改正まで、日本の不動産に関する所得税は、日本の不動産を売買すること前提に制定されていました。その為、海外不動産への投資が大きな節税メリットを生み出していました。
不動産を購入の際、土地と建物を同時に購入した場合は、建物の部分のみ減価償却が認められます。日本では、所有する不動産の中で土地の占める割合が非常に高くなります。
一方、海外では、土地よりも建物の割合が非常に高くなる場合があります。このようなケースでは、高額な経費の算入ができる為、所得税を節税できます。
このように、多額の減価償却費を計上し、不動産所得に損失を生じさせることで、他の所得と損益通算できる点が大きな節税対策と考えられていたのです。
3. 税法改正における注意点
2020年の税制改正により、
「個人が、令和3年以後の隔年において。国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は生じなかったものとみなす」
との内容が追加されました。
つまり、令和3年分以降の海外不動産からの所得において、建物の減価償却費を損失計上できなくなり、税金の減額ができなくなりました。
よって、税金対策で海外不動産投資を検討される場合、これまでメリットとして考えられていた部分にかなりの制限がかかってしまうことになり、実質的な節税が難しくなりました。
4. 対策は?法人化による節税メリット
今回の改正は、全ての不動産所得に対するものである為、既に所有している物件にも適応されるものです。
しかし、メリットが全くなくなったわけではありません。
法人に関しては、これまでと同様損失通算が可能です。法人では不動産による所得とそれ以外の所得を分けて考えません。法人で物件を契約している場合は、海外に所有している物件費用の赤字を算出できますので国内の本業の利益の節税が可能です。
また、海外に複数物件を所有している場合は、利益の出ている物件に対して赤字算出できますので、これまで通り節税のメリットを享受することができます。
この改正では、海外不動産投資全体が赤字となった場合適応となりますので、複数物件を所有しているケースでは、各物件での損益を相殺し、節税対策を行うことができます。
5. まとめ
税制は各国異なるため、まずは投資を始めるにあたって検討の対象となる国の税制は詳細に把握しておく必要があります。
また、基本的に投資額も多額になる為、今回ご紹介した税法の改正などを知っているか知っていないかで大きく状況が変わってしまいます。
金額が大きい分税金にも敏感になりますが、しっかりとルールを把握した上で脱税などにならないよう注意しながら投資を検討していきましょう。
執筆者:荒木 杏奈
アンナアドバイザーズ株式会社
日本とカンボジアを拠点に、国内・海外不動産業を展開。
PickUP
荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資