執筆者:荒木 杏奈
アンナアドバイザーズ株式会社
何かとひとまとめにして紹介されがちな東南アジア諸国。
しかし、1人当たりGDPが8位の国があったり、人口が世界4位の国があったりとさまざまな特徴を持った国があります。
今回はそんな東南アジア諸国の経済状況を見ながら不動産投資をするならどの国に投資するべきかを詳しく見ていきましょう。
1. 東南アジア諸国の経済状況
東南アジア諸国への投資は
・人口増加の傾向にあり、経済の成長が見込める
・日本からすぐに行ける距離にある
・生活やビジネス習慣に類似点が多い
・巨大化する市場と中間所得層の拡大
などの点から南米やアフリカの国々と比べておすすめであるという話を以前の記事でしました。
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しかし、東南アジアの中には12もの国があり、国によって経済の状況が大きく異なります。
今回はこの中から、1人当たりGDPが東南アジアトップのシンガポール、1人当たりGDPが3位で「東南アジアの優等生」と言われているマレーシア、東南アジアで人口が一番多いインドネシア、近年経済成長が注目されているラオス、今後の経済の伸びが期待されているカンボジアをピックアップして紹介していきたいと思います。
2. 東南アジアのトップ国シンガポール
まず、シンガポールから見ていきましょう。シンガポールは、東南アジア諸国の中で1人当たりGDPが断トツのトップで、全世界でも8位と、アメリカやスイスなどの経済大国と肩を並べるほどの国になります。
とはいえ、昔からずっと経済的に優れた国だったというわけではありません。1950年代のシンガポールといえば、失業率が10%を超える東南アジアでも有名なスラムの町でした。政府の”強力な外資導入政策”と”経済発展を国の根幹に据えた国家づくり”がこの課題を解決に導いたと言われています。
シンガポール政府は税制上の優遇措置や外資に対する出資比率の原則無制限など自由度の高い外資導入政策の下、外資資本と技術の誘致を行っていきました。その結果、シンガポールはさまざまな分野において地域ハブとしての地位を獲得したのです。
しかし、投資先として見たときには、ある程度経済が成熟しているため、経済成長幅が縮小しており、もはやかつてのような高成長は望めないと言えるでしょう。
3. 東南アジアの優等生マレーシア
続いて紹介するのは、東南アジアで1人当たりGDPが3位のマレーシアになります。近年安定した成長を続けているため、マレーシアのことを「東南アジアの優等生」などと呼ぶこともあります。
マレーシアは1957年にイギリスから独立以降、天然資源や農業を中心として経済発展をしてきました。その後、国主導で工業化を推進し、電気・電子産業を中心に製造業が発展し、現在のような経済成長を遂げたのです。
今後の経済成長のためには、高付加価値産業や知識集約型産業へのシフトが重要な課題になってくるといった意見もありますが、経済成長や法整備の観点から見たときにはおすすめの投資先と言えるのではないでしょうか。
しかし、外国人がマレーシアで購入できる不動産は100リンギット(日本円で約3,000万円)以上に限られるという法律があることに注意しなければなりません。州によっても法律による規制が細かく決められており、物件購入時には州政府からの許可も必要になるなど、縛りのある不動産投資になってしまうことは避けられないでしょう。
4. 東南アジアの人口大国インドネシア
インドネシアは東南アジア最大の人口を誇り、GDPは域内のおよそ40%を占める東南アジアきっての大国です。経済発展の原動力となってきたのは、石油や天然ガスを代表とする豊富な天然資源の輸出で、モノカルチャー型の経済がインドネシアの特徴となっています。
人口は世界第4位に位置し、国民の平均年齢も28歳と若いため、日本では1995年前後に終了した人口ボーナス期を、インドネシアはこれから向かえていくのではないかと期待されています。労働世代の人口も多く、自国の資源も豊富と聞くと今後も安定した経済成長を見込めそうな気がします。
しかし、インドネシアはインフラが貧弱という大きな欠点があるのです。インフラは「経済発展のアキレス腱」と言われるほど経済の成長において大切なものになります。インフラ上最も問題視されているのが、首都圏の激しい交通渋滞になります。首都ジャカルタでは、都市鉄道や高架鉄道など公共交通機関の整備が進んできていますが、依然としてジャカルタと東部の工業団地をつなぐ高速道路の渋滞は解消されていないのが現状です。政府は将来的な対策を進めていますが、経済的な発展を迎えるのはやはりインフラが整ってからになってしまうのではないかと考えられています。
5. 東南アジアで注目を集める国ラオス
近年の経済成長の好調さで注目されているのがラオスになります。ラオスは以前インドシナ半島の最貧国として知られていました。タイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、中国に囲まれた国土を持つラオスは内陸国で、国民の大半が自給自足の農業に従事しています。
本格的な経済成長への傾向が表れてきたのは、タイ・プラス・ワンが明らかになって以降、特にタイでの人権費高騰が引き金となったとも言われています。同時にベトナムからの生産移転の動きも出始め、その結果、首都ビエンチャンに限らずメコン川中流域の都市などでの両国との生産分業体制が組まれています。
また、ラオス最大の特徴は政治体制の安定性が高いことでしょう。これは、ラオスがベトナムと並ぶ共産党の一党支配体制を維持する社会主義体制を採っているためです。
しかし、投資先として考えたときには法制度の未整備と人口の問題があげられます。
法制度は近年できあがってきているのですが、それを活用・運用できるだけのノウハウが蓄積されていません。人口は、タイの10分の1、ベトナムの13分の1と人材確保の困難から賃金が急騰することも予想されます。
6. シンガポールを模倣する国カンボジア
東南アジアの中で経済の成長株として期待されているのが、カンボジアになります。
カンボジア政府がシンガポールを目標に政策を進めているのが、その大きな理由となります。
シンガポールは”外資流入政策”によって、今のような経済大国になったことは先ほどお話ししました。カンボジアも外資流入政策を模倣した政策を現在推し進めているのです。
外資の企業がカンボジアに進出するときに外資100%で会社を設立することができたり、送金に規制を掛けないなどの政策に力を入れているのです。その結果、外資企業を呼び込むことに成功しています。
法人税が安かったり、米ドル圏のため為替手数料がかからなかったりと、シンガポールがリーマンショックで急成長できたのと同じように経済的なポテンシャルを持っていると言えます。しかし、過去に独裁化があったりといった歴史的な背景から政治的な懸念事項があります。
いかがでしたか? 経済成長の余地が大きくあると言われている東南アジアですが、国ごとに見ていくとまた違った発見もあったのではないでしょうか。
執筆者:荒木 杏奈
アンナアドバイザーズ株式会社
日本とカンボジアを拠点に、国内・海外不動産業を展開。
PickUP
荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資