執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
近年、新興国の中でも高い経済成長率が注目されているカンボジア。
その不動産市場には、投資先として魅力的なポイントが多く存在します。
一方、海外であることから日本の不動産投資の常識からは、考えられないリスクも潜んでおり、知識がない故に失敗する人が後を断ちません。
この記事では、カンボジアの不動産投資市場におけるリスクや失敗パターンとその回避方法について、詳しく解説します。
これからカンボジア不動産投資を検討されている方、失敗を恐れている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
カンボジア不動産投資の特徴
カンボジアの不動産投資の特徴には、以下の5つが挙げられます。
高利回りの物件が多い
インカムゲイン(家賃収入)による利回りが、年利10%を超える物件が多く存在します。
「プレビルド方式」が採用されている
プレビルド方式とは、不動産の竣工前に購入を決めるという方式を言います。
カンボジアではプレビルド方式が一般的で、相場より安い物件価格で購入できるというメリットがあります。
キャピタルゲインを狙える
プレビルド方式により安い値段で購入できる点や、今後人口増加による経済発展と不動産価格の上昇が見込まれる点から、カンボジアの不動産投資はキャピタルゲイン(売却益)が期待できると言えます。
米ドルで運用できる
現地通貨のリエルの信頼性が低いため米ドルが流通しており、不動産の運用を為替リスクの少ない米ドルで行うことが可能です。
現地の銀行口座開設ができる
カンボジアでは非居住者でも銀行口座を開設できます。金利も5%前後と非常に高い水準にあります。
また他の東南アジア諸国に比べて、海外送金制限がないため、日本への送金が容易です。高金利な米ドル建て定期預金を利用できるメリットが大きなメリットと言えます。
カンボジア不動産投資のリスク
カンボジアで不動産投資を行う際には、日本の不動産投資とは違ったリスクがあることを知っておく必要があります。
こちらの章では、カンボジア不動産投資を取り巻くリスクについて解説していきます。
カンボジアという国のカントリーリスクがある
カンボジアには、主に法律関係のカントリーリスクが存在します。
それには1970年代前半から20年以上続いた、過去の内戦が影響しています。
この内戦で法律に関する書類が消失してしまったこともあり、カンボジアは近代国家として生まれ変わるための法整備を行っている段階です。
そのため、いざという時に宅建業法などの法律が機能しない可能性があります。
また、現在はない不動産投資関連の税金(キャピタルゲイン税など)が、今後カンボジアの税制が改定されて、課税されるようになるかもしれません。
なおキャピタルゲイン税に関しては、日本居住者の場合、日本で納税する必要があります。
融資の利用が難しく殆ど現金での購入になる
カンボジアで不動産投資をする際には、まとまった自己資金が必要です。
日本で不動産投資をする場合、投資資金の大半を銀行融資で賄う人も多いでしょう。
しかし、カンボジアを含む海外不動産を投資目的で購入する場合、大抵は金融機関の提示する条件を満たせず住宅ローンが組めません。
仮に組めたとしても、金利が高く採算が合わない可能性が非常に高いため、金融機関からの融資が期待できない点はデメリットといえます。
プレビルド方式であるため、途中で建設が中断されるリスクがある
カンボジアの不動産投資には、「建物が完成せず引き渡されない」という事態に陥る危険性があります。
カンボジアで普及している投資用の新築物件の契約方法は、不動産の建設前に購入を決める「プレビルド方式」です。
不動産が完成する前に費用を支払うため、建設中にディベロッパーの資金繰りが悪化するなどして建物が完成しない・物件購入時に支払った費用が返ってこないといったリスクが考えられます。
外国人は土地所有ができないため、コンドミニアムしか購入できない
カンボジアでは、外国人が国内の土地を所有することは認められていません。
外国人が購入できる投資用不動産は、アパートやコンドミニアムといった集合住宅に限られます。
加えて「2階以上」「全床面積の70%以下」などの制限も課されています。
業者が少ないため、信頼できる不動産会社を探すのが難しい
日本でカンボジアの不動産投資を扱っている不動産会社はまだ少なく、信頼できる業者が探しづらいのが現状です。
また、安定した運用を目指すためにも、カンボジアの不動産事情に精通している・購入後の物件管理なども相談できる不動産会社を探す必要があります。
そのため、業者探しのハードルは比較的高いといえるでしょう。
カンボジア不動産投資で実際にあった失敗事例8選
カンボジアの不動産投資で実際に起こった失敗事例について、「購入前」と「購入後」に分けて紹介します。
購入前の失敗事例
不動産の購入前に原因がある失敗事例を4つ紹介します。
① 途中で建設が止まってしまった
プレビルド方式でカンボジアの投資用不動産を購入したところ、ディベロッパーが倒産して工事が止まってしまい、建物が完成しなかったケースです。
この場合、不動産が手に入らないだけでなく、支払った費用が返金されない可能性もあります。
② お金を払ったあとに不動産会社がいなくなった
不動産を購入するための費用を支払ったあとで、不動産会社と連絡がつかなくなってしまったケースです。
カンボジアはまだ法整備が進んでおらず、日本の宅建業法にある「供託制度」がありません。
供託制度とは、不動産会社が定められた金額のお金を供託所に預け入れており、取引相手が債務不履行などのトラブルに巻き込まれた場合に、そこからお金を補填してもらえる制度です。
カンボジアでは、こういったケースで支払った費用を補填してもらうことができない点で注意が必要です。
③ 相場より高い金額で買ってしまった
実際の相場よりも高く不動産を買ってしまったケースです。
仲介業者に勧められたのが人気エリアの物件だったため、価格相場を調べずに焦って購入したことが失敗の原因です。
勧められた物件が魅力的でも、焦らずに自分でも情報収集してから検討することが大切です。
④ 思っていたより狭い物件を買ってしまった
カンボジアの面積表示について理解していなかったために、想定より狭い物件を購入してしまったケースです。
カンボジアの集合住宅の面積表示には「ネット面積」と「グロス面積」の2種類があります。
ネット面積は、専有部分(部屋)の面積とバルコニー面積を合計したものです。
一方でグロス面積は、共用廊下や階段の面積を含んだ延床面積を戸数で割ったもので、実際の住戸面積よりも広い数値になります。
グロス面積のみが記載されている物件資料もあるため、必ずネット面積を確認した上で購入する必要があります。
購入後の失敗事例
不動産の購入後に発生した失敗事例を4つ紹介します。
① なかなか入居者が決まらなかった
購入した物件の空室期間が長くなってしまったケースです。
投資用のコンドミニアムやアパートは、駐在員など裕福な外国人向けの高級物件です。
賃料が高く現地のカンボジア人が住むことはほとんどないため、外国人駐在員をターゲットにした入居者誘致の戦略を練る必要があります。
外国人の少ないエリアにある高級コンドミニアムを購入してしまった場合や、管理会社またはオーナーの入居者誘致に問題がある場合に起こり得るケースといえます。
② 登記済権利証を受け取れなかった
正式な登記済権利証にあたる書類を受け取れなかったケースです。
カンボジアでは、不動産の取得時に「ソフトタイトル」と「ハードタイトル」という2種類の書面が発行されます。
ソフトタイトルは不動産取引があったことを証明する書類です。
一方でハードタイトルは日本の登記済権利証にあたる書類で、こちらを入手しなければ物件の所有権を法的に主張できません。
さらに現在では、ソフトタイトルのみを用いた不動産売買は禁止されており、カンボジアの不動産を購入するときはハードタイトルを入手する必要があります。
③ 購入後のアフターサポートがなかなか決まらなかった
物件を購入した不動産業者から管理や売却のサポートが受けられなかったケースです。
購入後に困ることがないよう、事前に不動産業者の業務内容を確認し、できれば購入から賃貸管理・売却まで相談に乗ってくれる会社を探すのがよいでしょう。
④ なかなか売却ができなかった
買主が見つかるまでに時間がかかってしまったケースです。
日本人の投資家が、自分の力だけでカンボジア国内の不動産の買主を見つけるのは至難の業です。
売却で困った際には、カンボジア不動産投資の幅広いネットワークを持った仲介会社に問い合わせてみることをおすすめします。
カンボジア不動産投資の失敗を最小限に回避するには?
カンボジアの不動産投資にまつわる失敗を回避するために、適切なリスクの対処法について解説します。
信頼できるエージェントや不動産会社に依頼する
カンボジアで安全に不動産投資をするためには、信頼できるエージェントもしくは不動産会社を見つけることが非常に重要です。
依頼する業者を選ぶ際は、販売実績や現地法人の有無、現地の不動産投資に関する情報量などを確認しましょう。
不動産会社が開催する無料セミナーに行ってみるのもオススメです。
プノンペンなど賃貸ニーズが高いエリアに限定する
カンボジアの首都プノンペンなど、富裕層の外国人からの需要が高い、都市部の賃貸物件を購入することも大切です。
また、プノンペンの中でもエリアごとに特徴があるため、それぞれの賃貸状況などを把握しておくとなおよいでしょう。
大手ディベロッパーなどの物件でプレビルド方式のリスクを回避させる
日系企業や大手デベロッパーの物件を選ぶことで、プレビルド方式のリスクを回避できる可能性が高まります。
現地のデベロッパーよりも、資金力のある大手企業や日本を本拠地とした企業の方が信頼でき、より安全に不動産投資ができると考えられます。
現地視察に行く
不動産の購入前に、できる限り実際に足を運んで現地を視察しましょう。
購入する不動産自体というよりも、現地周辺の発展状況や立地上のメリット、取引する不動産会社のオフィスなどを視察することで、イメージと現実の相違を軽減することができます。
保証利回りなど利益率を事前に確保させる
利回りが保証されているなど、利益が確保されている物件を選ぶのも一つのリスクヘッジです。
カンボジアの不動産投資では、販売促進のために物件に利回り保証をつけている場合があります。
物件選びの際には、リスクをカバーできる保証の有無をチェックするとよいでしょう。
まとめ
カンボジアの不動産は高利回りである上、キャピタルゲインによるリターンを狙えるなど投資対象として非常に魅力的ですが、同時にさまざまなリスクをはらんでいます。
リスクの内容と回避方法を念頭に置いた上で、カンボジアの不動産投資による資産形成の成功を目指すことが大切です。
荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資