執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

2025年5月末、タイとカンボジアが両国の国境付近で武力衝突したという衝撃的なニュースが報じられました。
武力衝突はタイ・カンボジア両国だけでなく、ASEAN諸国など多くの国に影響を与えました。
今回は、タイとカンボジアの対立の経緯や歴史的背景のほか、現在の最新情報について詳しく解説します。
タイとカンボジアの現況を踏まえて、投資家がとるべき対策についてもご説明しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
タイとカンボジアの国境紛争を時系列で解説
ここでは、2025年5月に発生したタイ・カンボジアの国境紛争に関する一連の出来事を、時系列を追って解説します。
2025年5月28日 | プレアヴィヒア寺院周辺で両国軍が銃撃戦を展開
2025年5月28日早朝、タイ東北部のウボンラーチャターニー県とカンボジア北部プレアヴィヒア州の国境付近で、両国軍による銃撃戦が展開されました。
銃撃戦が展開されたのは、カンボジア領のプレアヴィヒア寺院の周辺部で、地図に示すと以下の通りです。

両国軍の幹部の判断によって戦闘行為は10分程度で収束しましたが、銃撃戦によってカンボジア兵が1名死亡しました。
タイ・カンボジア両軍は、戦闘に至った理由を次のように主張しています。
- タイ軍:武装したカンボジア兵がタイの国境を侵犯したため哨戒したところ、発砲されたので応戦した
- カンボジア軍:該当地点はカンボジア領であり、タイ側が先に攻撃してきた
お互いの主張は平行線をたどり、戦闘は収束したものの、タイ・カンボジアの緊張関係は急激に高まりました。
2025年7月1日 | タイのペートンタン・シナワット首相の職務停止が決定
両国間の緊張関係が続くなか、タイのペートンタン・シナワット首相とカンボジアのフン・セン前首相が非公式に電話会談を行いました。
ペートンタン首相の父親であるタクシン・シナワット前首相とフン・セン前首相は公私ともに親しい関係にあり、両氏には家族ぐるみの親交があったといわれます。
ペートンタン首相はタイ軍の行動を批判したほか、フン・セン前首相に親しみを示すなど、通話の内容はカンボジアを擁護するものであったとされます。
電話音声が流出したことにより、タイ国内ではペートンタン首相への非難が噴出し、与党第二党であるプームジャイタイ党が6月18日に連立政権から離脱しました。
日ごとにペートンタン首相の退陣を求める声が高まるなか、タイ憲法裁判所は7月1日にペートンタン首相に一時的な職務停止を命じました。
ペートンタン首相は謝罪の意を表明しながらも、「一連の言動は私利私欲ではなく、事態の解決を図ったものであった」と釈明しています。
2025年7月24日以降 | 戦闘機・ロケット弾が投入された両国軍の大規模な武力衝突
両国の緊張関係は7月に入っても緩和せず、国境付近ではカンボジア側が新たに設置したとされる地雷によって、複数のタイ兵が負傷するなどの被害が出ました。
7月24日には、カンボジアが多連式ロケット弾によってタイを攻撃したとされ、タイ軍は報復としてカンボジアの軍事施設に対し戦闘機による爆撃を行いました。
タイ政府はカンボジアの攻撃によって民間人にも死傷者が出たと発表し、過去10年で最大規模の武力衝突により、両国の関係性は極めて険悪な状態になりました。
2025年7月28日 | 諸外国の仲介による停戦合意
7月24日以降の大規模な武力衝突から4日後、7月28日にはタイのプムタム・ウェーチャヤチャイ暫定首相とカンボジアのフン・マネット首相による即時の停戦合意がなされました。
両氏はマレーシアの首相官邸で会談を行っており、マレーシア首相のアンワル・イブラヒム首相のほか、アメリカ・中国の政府代表なども同席しました。
マレーシアは2025年のASEAN議長国を務めており、停戦合意にはASEANやアメリカ・中国の仲介が大きな役割を果たしたといえます。
アメリカのトランプ大統領は、停戦合意後にプムタム暫定首相・マネット首相の両氏と電話会談を行い、「戦争が終結した」と自身の成果を強調しています。
2025年8月7日 | ASEAN監視団の派遣についての合意
停戦合意後の8月7日、タイ・カンボジア両国はマレーシアで国防相レベルの会談を行い、停戦に向けたASEANの監視団を受け入れると合意しました。
7月28日の停戦合意後も両国間の散発的な小競り合いは続いており、監視団は相互の挑発行為や民間人への攻撃を停止させることを目的としています。
両国軍は対話を維持し、紛争の平和的解決に努めることでも合意しました。


タイとカンボジアの国境紛争が発生した歴史的背景
タイとカンボジアの国境紛争は突発的な事象ではなく、長年にわたる歴史的背景があり、複雑な国民感情に起因しています。
ここでは、タイとカンボジアの国境紛争が発生した歴史的背景についてご説明します。
植民地時代の曖昧な国境画定
19世紀、カンボジアはシャム(タイの旧名)の領土の一部でしたが、のちにカンボジアの北部地域がフランスの植民地に割譲されました。
1907年、フランスは両国の国境をダンレック山地の分水嶺によって画定しており、同地域にはアンコールワットも含まれています。
フランスの国境確定によって、アンコールワットに加えて帰属が曖昧なプレアヴィヒア寺院もカンボジアに属すると定められました。
植民地時代の曖昧な国境画定は、両国間の禍根として根強く残ることとなります。
プレアヴィヒア寺院の領有権をめぐる国際司法裁判所の判決
1930年代にはタイの測量によって、ダンレック山地の分水嶺と国境線が一致していないとの主張がなされました。
第二次世界大戦の終戦後は、タイがプレアヴィヒア寺院周辺に軍を展開し、同地域を実効支配しています。
カンボジアはタイの措置を不服とし国際司法裁判所に提訴しており、1962年に国際司法裁判所はプレアヴィヒア寺院をカンボジア領であると判決を下しました。
国際司法裁判所の判決によって問題は一応の解決に至りましたが、タイには払拭しがたい不満が残ったと考えられます。
内戦による国境問題のさらなる複雑化
1970年代には、カンボジア内戦やポル・ポト政権の台頭によって、カンボジア国内は著しく荒廃します。
難民や武装勢力の流入が相次ぎ、国境問題はさらに複雑化しました。
なお、カンボジアの古い不動産には内戦の影響によって所有者が明確でないものや、瑕疵物件が多くあります。
2008年・2011年の2度にわたる武力衝突
2008年にカンボジアの申請によってプレアヴィヒア寺院が世界遺産に登録されますが、カンボジアの行動がタイの大きな反発を招いてしまいます。
両国間の緊張は急激に高まり、同年10月にはプレアヴィヒア寺院周辺で銃撃戦が展開されました。
また、2009年にはタイの活動家がカンボジア領に侵入したとして逮捕されています。
2011年には再び武力衝突が発生しましたが、死者が出るほどの激しいものでした。
国際司法裁判所の仲裁による一時的な問題の沈静化
度重なるタイとカンボジアの衝突を重く見て、国際司法裁判所が仲裁に乗り出しています。
2011年7月にはプレアヴィヒア寺院周辺に展開している両国軍の即時撤退が命じられ、2012年7月に両軍の撤退が完了しています。
2013年、国際司法裁判所はプレアヴィヒア寺院はカンボジアに帰属するという判決を下します。
一応は解決に至ったプレアヴィヒア寺院周辺の国境紛争ですが、その後も散発的に小競り合いが発生しており、問題が根本的に解消されたとはいえない状況が続いていました。
停戦合意後も不安定な状況が継続
諸外国の仲裁によってタイとカンボジアの停戦合意がなされましたが、根本的な問題解決に至っているとはいいきれない状況です。
今回の国境紛争は過去最大級の規模で、両国間の衝突には以下のように大きな影響がありました。
- 30人以上の民間人が死傷
- 紛争による難民が20万人超え
- タイがカンボジアとの国境をバリケードで封鎖
歴史的背景も考慮すると、相手国への反感は根強く、今後も状況は複雑に推移していくと考えられます。
また、タイとカンボジアの国境が通行不能になっている箇所があることなどから、物流や経済活動への影響も懸念されています。
カンボジアの国境周辺部は海外安全情報でレベル3
外務省のサイトでは、渡航者向けに世界各国の海外安全情報を掲載していますが、現在のカンボジアの情報は以下のように表示されています。

オレンジ色で示された地域はレベル3に該当し、渡航の中止勧告を意味しています。
地図が示すように、タイとカンボジアの国境周辺はいまだに緊張が継続している状況です。
武力を伴う散発的な衝突も予想されるため、むやみに接近するのは避けるべきでしょう。
なお、カンボジアは窃盗などの軽犯罪が発生しやすく、全土がレベル1(十分に注意)以上に指定されています。
カンボジアの治安については、こちらの記事で詳しく解説しています。
タイとカンボジアの国境紛争で投資家が注意すべき3つのポイント
タイとカンボジアの国境紛争は、両国を中心とした経済にも影響を与えました。
ここでは、投資家の視点から今後の注意点を3つ解説します。
タイ・カンボジアの株式市場への中長期な目線
停戦合意後、タイ証券取引所(SET)では一時的に株価が上昇しました。
ただし、多くの投資家は慎重な姿勢を示しており、株価の上昇は一時的な事象に留まるとの見解も見受けられます。
市場の反応が一時的に落ち着いても、実体経済への影響が長引けば、株価は再び下落に転じる可能性があります。
投資家は短期的な値動きに惑わされず、中長期の安定性を見極める姿勢が求められるでしょう。
バーツ・米ドル・リエルの為替推移をチェック
停戦直後、バーツは一時的に上昇しましたが、その後も変動幅が大きい状態が続いています。
リエルは国際的な流通量が少ないため為替市場への影響は限定的と考えられますが、米ドルと密接に連動しているので注意が必要です。
カンボジアでは米ドルが実質的な基軸通貨となっているため、カンボジアで投資をする際は、米ドルのレートを常に把握しておきましょう。
リスク分散を考慮した投資スタイルの検討
国際機関の統計では、タイ・カンボジアへのFDI(海外直接投資)は停戦合意後も「様子見」の状態が続いています。
特に製造業やインフラへの本格的な投資は、停戦が3ヶ月〜半年とある程度持続したのちに再開される傾向があります。
安全な取引のためには、短期的な市場の推移を追うのではなく、リスク分散を前提とした投資を心がけましょう。
例えば、複数国の海外不動産投資を行うことや、別の投資商品と組み合わせることなどがリスク分散には有効です。


カンボジア不動産関連のツアーは現在も複数社が開催
タイとカンボジアの関係性は改善されたとはいいがたい状況が続いていますが、カンボジアへの渡航自体は可能です。
日本国内の旅行会社は現在もカンボジアの旅行ツアーを販売しているほか、現地の不動産視察ツアーなどを開催している業者も複数見受けられます。
国境付近は予断を許さない状況ですが、国境から離れたプノンペン周辺部はタイとの紛争の影響が比較的少ないとされています。
弊社でも現地の最新情報を把握しながら、今後もプノンペンでの不動産視察・銀行口座開設ツアーを実施予定です。
ただし、ツアー行程外などに興味本位で国境付近に立ち寄ることなどは控えるべきでしょう。
アンナアドバイザーズは2拠点体制でカンボジア不動産投資をサポート
弊社は海外不動産投資や銀行口座開設など、外貨を取り入れたお客様の資産形成をサポートしております。
弊社サービスの詳細については、以下で詳しく説明させていただきます。
プノンペンオフィスには日本語スピーカーが常駐
弊社は東京とプノンペンの2拠点体制で事業を展開しており、現地に根付いたサービスを提供できるのが強みです。
プノンペンオフィスでは、日々の管理業務を綿密に行うほか、直接的な物件の内見や銀行口座開設のサポートに対応可能です。
プノンペンオフィスにも日本語スピーカーが常駐しており、日本語でのご案内に対応しております。
弊社ではプノンペンオフィスとの連携により、現地の動向を常に把握しております。
不動産物件の仲介はプノンペン周辺部に特化
弊社は創業以来、多数の物件を仲介してまいりましたが、取り扱い物件はプノンペン周辺部に特化しております。
カンボジアは主に内戦の影響で地方物件には瑕疵が多く、外国人による国境近辺の物件購入は不可能ですが、弊社では安全に取引できる物件を厳選しております。
日々の管理業務にも注力しており、物件のメンテナンスや入居者トラブルなどには、現地スタッフが誠実に対応できるのが特徴です。
居住用物件・事業用物件の両方を仲介可能で、投資・移住・現地進出など幅広いニーズにお応えできます。
カンボジア銀行口座開設も実績多数
カンボジアは不動産投資だけでなく、以下のような特徴から、銀行口座開設にも多くのメリットがあります。
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- 多くの銀行が非居住者でも口座を開設・保有可能
- 日本語に対応した銀行が多数
弊社では効率的な資産形成のために、不動産投資と銀行口座開設のセット運用を推奨しておりますが、どちらか一方のご利用も可能です。
カンボジア銀行口座の開設は不動産投資よりも格段にスタートしやすく、弊社でも主婦・会社員などより幅広いお客様にご利用いただいております。
なお、カンボジアのおすすめ銀行については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
まとめ
タイとカンボジアの国境問題は、歴史的背景や複雑な国民感情が入り混じることで、長期間にわたって継続してきました。
2025年5月28日の武力衝突をきっかけとした国境紛争は、過去最大規模のものになりました。
国境紛争はASEANやアメリカ・中国の仲裁によって停戦合意に至りましたが、問題が根本的に解決したとはいいきれない状況です。
カンボジアに渡航する際は、タイとカンボジアの国境付近への接近は避けるほか、現地の動向を確認しておきましょう。
投資など経済活動を行う際も、株式や為替レートの推移を中長期的な目線で見定めることが重要です。
弊社では、国境紛争の影響が比較的少ないプノンペンで不動産視察ツアーなどを開催しています。
プノンペンオフィスでは現地の動向を常に把握しておりますので、カンボジア不動産投資・銀行口座の開設を安心してスタートしていただけます。



荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資
