中国はカンボジアの重要な経済パートナー!不動産分野でも存在感を発揮

執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

現在、カンボジア政府は外資を取り入れた政策で国内経済を成長させていますが、カンボジアの成長は特に中国との経済的な連携が大きく影響しています
今回は、カンボジアと中国の協力関係に焦点を当てながら、カンボジア国内の状況について詳しく解説します。

日本とカンボジアの関係などもご紹介しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

カンボジアと中国の長い歴史にわたる密接な交流

カンボジアと中国は古代から交易などで活発に交流しており、二国間の関係には長い歴史があります。
以下に解説する通り、特に1990年代以降はカンボジア政府は中国と非常に密接な関係を構築しています。

フン・セン政権を中国が積極的に支援

現在、カンボジアの政権を担っている人民党は、内戦の際にベトナムの支援によって樹立されたカンボジア人民共和国(1989年に現国名に改称)がルーツです。
カンボジア内戦時代の中国はベトナム勢力と対立していたため、1991年の和平協定成立後もしばらくはカンボジアと疎遠な状態でした。

和平成立後もカンボジア国内では主導権を巡って諸勢力が争っており、1997年には二大与党であったフン・セン派(人民党)とラリナット派(フンシンペック党)が武力衝突を起こします。
事件後、ラリナット第1首相は失脚しフン・セン第2首相が主権を獲得しますが、武力による政変であったために国際社会から批判を受けました

中国はフン・セン政権に理解を示し、カンボジアに対して迅速に支援を行っています。
中国のフン・セン政権に対する支援をきっかけに、中国とカンボジアは急速に関係性を強化していくこととなります。

フン・マネット政権とのパートナーシップも緊密

カンボジアでは長らくフン・セン氏が首相に在任していましたが、2023年にはフン・セン氏の長男であるフン・マネット氏が新首相に就任しました。

フン・マネット首相は、就任後の最初の外国訪問先として中国を選んでいます。
北京でマネット首相の訪問を歓迎した習近平国家主席は、マネット首相を大いに歓迎するとともに、深い感謝の意を表明しました。

カンボジアの現政権はフン・セン元首相の基盤を引き継ぐ形で成立しており、中国との関係性は今もなお強固なものです。
2025年4月には、フン・マネット首相と習近平国家主席が供給網の構築や運河の整備に関する共同声明を発表しています。

カンボジアへの投資額は中国が最多

カンボジアと中国は、1990年代の中国によるフン・セン政権への支援をきっかけに、急速に関係性を強化していくこととなります。
近年の中国のカンボジアに対する投資額は突出しており、カンボジアの経済発展に大きく寄与しています。
ここでは、中国の対カンボジア投資について詳しく解説します。

2000年代以降から中国の投資が急増

中国のカンボジアに対する投資は2000年代以降に急増しており、投資適格(QIP)案件への投資額の割合は以下の通りです。
なお、投資適格案件とはカンボジア開発協議会が認可した投資案件で、優遇措置が付与されるものです。

国・地域名2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年2019年2019年構成比
中国8621,7426007689538571,0771,6363,2683,71878.2%
英領バージン諸島494639.8%
日本2666265786759820638762996.3%
タイ13121434541661651731.5%
ベトナム15768384299498888580661.4%
シンガポール1675503510010926018300.6%
※単位は100万米ドル
※一部を省略しています
※カンボジア開発協議会調査
出典:JETRO「中国企業、カンボジアで圧倒的な存在感」

2010年代後半からの中国の投資額は突出しており、2019年時点では全体の80%に近い金額を投入しています。
日本もカンボジアに多額の投資を行っていますが、中国の存在感は圧倒的で、カンボジアの産業発展に大きく貢献していると読み取れます。

中国の投資によってカンボジアの縫製業が活発に成長

中国のカンボジアに対する投資額割合では、以下のグラフが示すように縫製業への割合が多くを占めています。

※件数は中国からの投資件数を示します
※縫製業は「衣服・靴・鞄・雨具・マスク・テントなどの諸製品、および編み物・糸加工・刺しゅう・染め物・洗浄・ラベリング・プリントなどの周辺業務を含む」ものを示します
出典:JETRO「中国企業、カンボジアで圧倒的な存在感」

カンボジアの主力産業は縫製業であり、中国の援助によって縫製業が発展してきたと読み取れます。
非縫製業では容器包装・プラスチック・精米・電化製品などが主流でしたが、2018年以降は非縫製業の割合が急増しており、投資分野も変化してきています。

近年の中国はカンボジアのインフラ投資にも積極的

先のグラフが示したように、2018年以降の中国の対カンボジア投資では非縫製業の割合が急増しています。
非縫製業ではインフラへの投資が目立っており、JETROの報道によれば、空港・国道・高速道路など大型プロジェクトが多いのが特徴です。

例えば、中国の投資によって2022年にプノンペンとシアヌークビルに、国内初となる高速道路が開通しました。
2025年9月に開港予定のプノンペン新国際空港にも中国の資本が投入されています。

デジタル分野で中国企業のカンボジア進出が加速

中国はデジタル分野においてもカンボジアに積極的な支援を行っており、5Gの導入が進んでいます。
2020年1月には、中国の大手通信機器企業「華為技術(ファーウェイ)」がカンボジアに5G導入のための器材や技術トレーニングを提供する覚書が締結されました。
2025年1月、フン・マネット首相は携帯電話の5G導入を進める指針を表明しています。

また、キャッシュレス決済においても、中国のアリペイがカンボジアのパイペイ・ダラペイと提携しています。
パイペイ・ダラペイが使用可能な店舗では、アリペイによる決済も可能です。

不動産分野でも中国系デベロッパーが存在感を発揮

2018年以降、中国の対カンボジア投資には非縫製業への割合が増えており、インフラのほかにもホテル・商業施設などの観光業・不動産業への投資も目立っています

中国の大手デベロッパーは、カンボジア国内に数億ドルという巨額を投じて複数の5つ星ホテルを建設しています。
そのほか、中国がシアヌークビルの「リアムシティー」やプノンペンの「プリンススクエア」などの総合施設を開発したことも大きな話題となりました。

カンボジアと中国が連携した大規模プロジェクト5選

カンボジアは中国との経済協力を強化しており、二国間で進行している大規模なプロジェクトが複数あります
ここでは、カンボジアと中国間での大規模プロジェクトを5つご紹介します。

一帯一路 | 中国主導の国家間にわたる交易プロジェクト

一帯一路は、中国が掲げる大規模な経済構想で、陸路・海路の両方でアジア・中東・ヨーロッパ・アフリカをつなぐ巨大な交易ルートの構築を目的としたものです。
習近平国家主席が2013年に提唱したもので、古代中国の大規模な交易路であったシルクロードを模しています。

カンボジアでは、中国の投資によって2022年にプノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路が開通しました
また、ベトナム国境のバベットとプノンペンを結ぶ高速道路も構想されています。
2024年にプノンペン市内に開通した道路は「習近平通り」と命名されており、カンボジアと中国の密接な関係が読み取れます。

ただし、一帯一路は中国自体の経済の停滞によって先行きが不安視されており、プロジェクトからの離脱を表明する国も出ています。

シアヌークビル経済特区 | 一帯一路構想のモデルケース

シアヌークビル経済特区は、カンボジア国内で最大級の経済特区であり、中国・カンボジアの双方が一帯一路のモデルケースとして掲げています。
1,100haを超える広大な敷地内には200社が入居でき、敷地内に入居している工場は中国が約8割を占めているのが特徴です。

高速道路の開通によって、プノンペンとのアクセスは約2時間と利便性が向上しています。
沿岸部に位置する港湾エリアは日本の技術を活かした高性能な排水施設などを備えており、大型船の寄港も可能なため、貿易港としての重要性が高まっています。

2つの回廊 | 特定の地域を中心に展開するプロジェクト

「2つの回廊」とは、シアヌークビルを中心とした「産業開発回廊」とトンレサップ湖を中心とした「魚と米回廊」を示します。

「産業開発回廊」はシアヌークビルを中心としたインフラ整備・経済圏の構築を目的としており、中国が活発な投資によって構想を推進しています。
「魚と米回廊」はトンレサップ湖を中心に近代的な農業システムの構築を目的とするもので、中国・カンボジアが合同で推進するプロジェクトです。

ダイヤモンド・ヘキサゴン | 6分野での密接な連携

ダイヤモンド・ヘキサゴンは、カンボジアと中国が6分野にわたって密接に連携することを表明したものです。
ヘキサゴンとは六角形を意味しており、ダイヤモンド・ヘキサゴンには政治・製造・農業・エネルギー・文化交流・安全保障の6分野が該当します。

非常に広い分野にわたる協力が謡われており、「ダイヤモンド」の名称が示すように、カンボジアと中国が固い結びつきをめざしていることが窺えます。

リアム海軍基地 | 中国による軍事利用の可能性

リアム港はカンボジアの南西部にあり南シナ海に通じていることから、地理的に重要な拠点です。
リアム港はカンボジア海軍基地として利用されていますが、中国が資金援助を行って2025年4月に拡張工事が完了しました。

投資の見返りとして中国軍が一部の施設を独占的に利用している可能性が指摘されており、中国の軍事優位性につながりうることから、アメリカは警戒心を抱いています。
工事完了後には日本の自衛隊艦艇がリアム港に寄港しており、「各国にオープンにされた港」というイメージを強調するカンボジアの意図があったと考えられています。

カンボジア国内での中国に対するネガティブな反応

カンボジアは中国との密接な関係で経済が潤う一方で、中国との緊密な関係がカンボジア国民のネガティブな反応を引き起こす場合もあります
ここでは、カンボジアと中国の関係性によるネガティブな反応についてご説明します。

中国のクメール・ルージュ支援に対する負の国民感情

1975年、ポル・ポト率いるクメール・ルージュがカンボジア政権を掌握します。
軍事クーデターによって成立していた親米派のロン・ノル政権を打倒したポル・ポトですが、政権を奪取後は極端な原始共産主義政策を執行しました。

ポル・ポトの政策は全国民を農村に移住させ、手作業による農業に従事させるといったもので、毛沢東の掲げる急進的な共産思想に影響を受けたといわれます。
現代文明から乖離したポル・ポトの政策は、過酷な労働や飢餓・知識人への弾圧・反対勢力の虐殺などにより、カンボジア国内人口の約25%という多大な犠牲者を出しました。

中国は武器を提供するなど軍事面でもクメール・ルージュを密接に支援しており、結果的にポル・ポトの圧政を助長させました。
クメール・ルージュの活動による惨禍は記憶に新しく、中国がポル・ポトを強力に支援していた事実は、カンボジア国民に負の感情として色濃く残っているとされています。

中国のシアヌークビル乱開発に伴う荒廃

シアヌークビルには一帯一路構想の要衝地として、2015年ごろから多額の中国資本が流入しています。
シアヌークビルは「第二のマカオ」をめざすべく、中国主導によってカジノやホテル・商業施設が次々に建設され、かつての「静かな美浜」という様相から一変しました。
カンボジアの都市でありながら中国語の看板が点在し、市中にも中国産の製品が多数出回りました。

半ば中国人街となったシアヌークビルですが、後に中国の不動産不況やコロナ禍の影響を受けて、多くの中国資本が撤退しました
現在、中国の建設ラッシュによって乱立された建物の多くが廃墟と化しており、治安の悪化が懸念されています。
カンボジアの現地住民としては中国側の都合に振り回される形となり、一部の住民からは困惑や憤りの声が上がっています。

対中国で発生している慢性的な貿易赤字

中国はカンボジアの主要貿易相手国のひとつであり、外務省の公表によれば、2024年のカンボジア輸入額の46.8%が中国です。
カンボジア税関総局の発表では、2025年第1四半期には対中国のカンボジア貿易額は前年度比で26.7%増の40億6,000万ドルに達しました。

ただし、カンボジアの衣類やバッグ類などの輸出増加に伴い、中国からの輸入品目は原材料となる布地やボタンなどの部材であることが指摘されています。
カンボジアの対中国貿易は輸入赤字が恒常化している点が問題視されており、原材料の国内増産が課題となっています。

「中国への傾倒」そのものへの懸念

カンボジアは中国からの多額の援助によって発展していますが、「カンボジアの中国化」「カンボジアは中国に依存している」など、現状を危惧する意見もあります。
JETROのレポートによれば、カンボジアで中国の投資による利益を直接的に受けられるのは、不動産オーナーなど少数にとどまるとされています。

中国企業は自国から中国人労働者を多く雇用するため、カンボジア人の雇用促進につながりにくい点も無視できません。
中国資本の流入や中国企業のカンボジア進出による恩恵をカンボジア人が受けにくいため、カンボジア人の不満や反感を生んでいる可能性が指摘されています。

また、シアヌークビルの「ゴーストタウン化」のように、中国経済の後退がカンボジアにも大きな影響を及ぼしやすい点も懸念されています。

ASEAN諸国内での中国に対する温度差

カンボジアと中国は政府間で強固な関係を構築していますが、ASEAN諸国内での中国に対する立場は国によって異なっているのが特徴です。
カンボジアと同様に、ラオスは一帯一路構想によって中国の雲南省と首都ビエンチャンを結ぶ鉄道を敷設するなど、親中国家として知られています。

カンボジアやラオスが中国との関係を深める一方で、ベトナムやフィリピン・マレーシアなど南シナ海の領有権を巡って中国と対立している国家も存在します。
特に、ベトナムはバイデン政権時代にアメリカと包括的なパートナーシップ協定を締結しており、安全保障や経済面での連携を強化しました。

ASEAN諸国で中国に対するスタンスが国家間で異なっており、中国への対応を一致しづらい状況にあるといえます。

カンボジアは日本とも良好な関係性を構築

カンボジアは中国と密接な関係にありますが、日本とも良好なパートナーシップを構築しています。
ここでは、カンボジアと日本の関係性についてご説明します。

カンボジアは全体的に親日的

日本はカンボジアに対して長年にわたって支援を行っており、特に日本のODA(政府開発援助)によるインフラ・技術面での支援はカンボジア国内で有名です
日本の技術支援によって建設された道路や橋梁は、機能の高さや頑丈さで高く評価されており、日本を称賛するカンボジア人が多いといわれています。

日本人とカンボジア人は礼儀正しさや謙虚さを美徳とする国民性が類似しているといわれており、カンボジア人が日本人に親近感を抱きやすい理由に挙げられます。
日本のアニメやマンガはカンボジア人にも人気があり、現地で和食が広まるなど、文化面でも親しまれているのが特徴です。

日系企業のカンボジア進出は増加傾向

JETROの調査によれば、2022年時点でカンボジアに進出した日系企業は1,300社近くに上っており、カンボジアに進出する日系企業は増加傾向です。
JETROの調査に対し、カンボジア進出後の業績を黒字または均衡と回答した日系企業が全体の7割近いのも特徴です。
日系企業がカンボジアに進出する際のメリットには、不動産価格の安さや若年層が多く労働力が豊富である点などが挙げられます。

カンボジアに進出した日系企業で特に著名なのがイオンで、プノンペン市内にはイオンモールを3店舗展開しており、現地のランドマークにもなっています。
カンボジア国内最大手のアクレダ銀行は三井住友銀行が筆頭株主で、定期預金の金利の高さや豊富な預金プランが魅力です。

日系企業のカンボジア進出については、こちらの記事で詳しく解説しています。

国内最高級コンドミニアムとして名高い「J-Tower」シリーズ

不動産分野でも日系デベロッパーの開発した物件が注目されており、特に「J-Tower」シリーズは富裕層から高い人気を得ています
「J-Tower」シリーズは富裕層向けのファミリータイプコンドミニアムで、既に竣工している2棟に加えて3号棟となる「J-Tower3」も建設中です。

2028年10月竣工予定の「J-Tower3」は300m・77階建てという大規模プロジェクトで、国内でも最大級のコンドミニアムとして注目されています。
カンボジアの物件はデベロッパーの倒産などによる未竣工リスクが問題視されていますが、「J-Tower」シリーズは実績も十分にあり、プロジェクトへの信頼が高いのも特徴です。

弊社も「J-Tower3」内の物件を複数仲介しており、アンナスイートという特別仕様のお部屋もプロデュースさせていただきました。
弊社の取り扱い物件の詳細については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

まとめ

カンボジアと中国は歴史的にも長い交流がありましたが、特にフン・セン元首相やフン・マネット現首相の政権とは深い協力関係にあります。
中国からカンボジアへの投資は2000年代以降に急増しており、近年は縫製業のほかに、インフラや不動産への投資案件も増加しています

カンボジアと中国が経済連携したプロジェクトも複数展開されていますが、中国との密接な関係性はカンボジアの中国依存につながると懸念されているのも事実です。
カンボジアと中国は非常に密接な関係にありますが、カンボジアと日本も経済・文化交流を通じて良好な関係性にあります。

弊社はカンボジア不動産の仲介や、カンボジア銀行の口座サポートを提供しております。
カンボジア不動産投資や、海外銀行の口座開設に興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
   はじめての海外不動産投資