タイとカンボジアで国境紛争が勃発!カンボジアへの影響を考察

執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

2025年5月末ごろ、タイとカンボジアの国境付近で武力を伴う紛争が勃発したという衝撃的なニュースが報じられました。

今回は、タイとカンボジアで国境紛争が起こった歴史的な背景や、現在の情勢について解説します
カンボジア不動産投資に関する注意点についても、再度確認しておきましょう。

2025年5月末に二国間の国境周辺で軍事衝突が発生

2025年5月28日早朝、タイ東北部のウボンラーチャターニー県とカンボジア北部プレアヴィヒア州の国境地帯で、両国軍による銃撃戦が展開されました。
銃撃戦が展開されたのは、タイとカンボジアの国境付近にあるプレアヴィヒア寺院の一帯であり、地図では以下の通りです。

出典:wikipedia「プレア・ヴィヘア寺院事件」

両国軍の幹部の判断によって約10分で停戦し、大規模な衝突には発展しなかったものの、戦闘によって1名のカンボジア兵が死亡しました。

事件が発生した地域は国境の係争地となっており、タイ軍・カンボジア軍はそれぞれ以下のような主張をしています。

  • タイ軍:武装したカンボジア兵がタイ領内に侵入したため哨戒したところ、発砲を受けたので応戦した
  • カンボジア軍:事件が発生した一帯は長年カンボジア領であり、タイ軍が先に発砲してきた

タイ・カンボジア間で発生した軍事衝突を経て二国間の対立が憂慮され、国際ニュースとしても大きく報じられました。

タイとカンボジアの国境を巡る対立の歴史

タイとカンボジアの国境を巡る対立は、今回の事件が初めてではなく、19世紀のフランス植民地時代から続く深刻な問題です。
「タイとカンボジアは仲が悪い」と一部のサイトなどで指摘されている大きな要因でもあります。
ここでは、二国間の国境に関する対立の歴史をご紹介します。

二国間の国境問題はフランス植民地時代に起因

タイとカンボジアの国境問題は、カンボジアがフランスの植民地になっていた19世紀に起因しています。
1863年、カンボジアはフランスの植民地支配を受けますが、その後にシャム(当時のタイ)の領土であったカンボジア北部地域がフランスに割譲されました。
1907年には、フランスが二国間の国境をダンレック山地の分水嶺に定めており、該当区域にはアンコールワットも含まれています。
アンコールワットのほか、帰属が曖昧だったプレアヴィヒア寺院もカンボジア領に定められたことで、二国間の領土問題に禍根が残ったといわれています。

プレアヴィヒア寺院周辺地域の領有権に関する対立

1930年代には、タイ側の測量によってダンレック山地の分水嶺と国境線が一致していないという主張がなされました。
第二次世界大戦後は、タイがプレアヴィヒア寺院周辺に軍を展開し、同地を実効支配していました。

カンボジアはプレアヴィヒア寺院周辺地域の領有権を巡って国際司法裁判所に提訴し、1962年には同地域の領有権はカンボジアにあると判決が下っています。
タイにとっては不服な判決と考えられますが、国際司法裁判所の仲裁によって、問題は一応の決着に至りました

2008年にプレアヴィヒア寺院周辺部で軍事衝突が発生

2008年にはカンボジアの申請によってプレアヴィヒア寺院が世界遺産登録されましたが、カンボジア側の行動がタイの反発を招いてしまいます
二国間の緊張は急激に高まり、同年10月には寺院周辺でタイ軍とカンボジア軍による銃撃戦が勃発しました。
2009年末には、タイの活動家がカンボジア領内に侵入したとして逮捕されるという事態に発展しています。

2011年には再び二国間での軍事衝突が発生し、複数の死傷者が出るほど激しい戦闘が繰り広げられました。

2013年に国際司法裁判所の仲裁で一時的に問題が沈静化

タイ・カンボジアの国境紛争が深刻化している事態を重く見て、国際司法裁判所が仲裁に乗り出します。
2011年7月には、国際司法裁判所によってプレアヴィヒア寺院周辺の両国軍に即時撤退を命じる措置がとられ、2012年7月には両国軍が該当地域から撤退しました。

2013年には、国際司法裁判所によってプレアヴィヒア寺院周辺地域はカンボジア領であるとの判決が下されており、一応の決着に至りました
ただし、完全な和解に至ったとはいいがたく、その後もプレアヴィヒア寺院周辺部では二国間での小競り合いが断続的に発生しているとされています。

タイのタクシン派政権成立による再度の緊張関係

タイとカンボジアは経済的な連携を強化するなど協調路線をとっていましたが、2023年にタクシン派政権が樹立したことで、再び国境問題が浮上します。
タクシン=シナワット元首相のポピュリズム政策は民衆から熱烈な支持を受けた一方で、強硬的な路線が反発を招き、軍事クーデターによって退陣しています。

2024年に、タクシン派政権がカンボジアと合同の資源開発計画を進行させますが、国境未画定地域にカンボジア側の地図が使用されているとの指摘がなされました。
解釈によってはタイの領土の一部が失われかねないと反タクシン派が糾弾し、タクシン元首相の息女であるぺートンタン首相やカンボジアを激しく非難するといった事態に発展します。

タイでの騒動によってカンボジアも態度を硬化させており、二国間で国境問題が強く意識されることとなりました
今回の軍事衝突にさきがけて、2025年2月にも両国の国境警備隊や市民団体が激しい口論を交わすなど、緊張は高まっていました。

二国間の緊張は依然として継続

5月末に発生した軍事衝突を受けて、二国間で国境に関する会談が開かれましたが、根本的な解決には至っていません。
6月15日にはフン・マネット首相が自身のSNSに「国境紛争に関する国際書簡を国際司法裁判所に送った」と投稿しました。
タイ政府はマネット首相の投稿に対して遺憾を表明する一方で、引き続き解決の道を探っていくとの反応を示しました。

また、二国間とも国境紛争を受けて、主に以下のような措置を講じています。

タイカンボジア
・カンボジアとの国境検問所を一部移動
・カンボジア産キャッサバの輸入管理を強化(6月21日)
・カンボジアとの国境検問所を全面的に封鎖(6月23日)
・タイの映画を輸入禁止
・一部の国境検問所を閉鎖(6月19日)
・タイからの石油・ガス輸入を禁止(6月22日)

相手国の規制措置に対する応酬が続いており、二国間の対立は深刻な様相を呈しています

国境紛争に関する電話音声が流出しタイの政局が混乱

タイとカンボジア国境での軍事衝突を受けて、タイのぺートンタン・シナワット首相とカンボジアのフン・マネット首相が電話による私的な話し合いを行いました。
両首相の間には家族ぐるみでの親交があり、個人的にも親しい間柄であると考えられています。

通話中、ぺートンタン首相はタイ軍に対する冷淡な発言をしたほか、マネット首相を親しげに「おじさん」と呼ぶなどカンボジアを擁護するような立場を示したとされます。
該当の通話音声が外部に流出してしまい、タイ国内ではぺートンタン首相を批判する声が噴出しました

ぺートンタン首相の電話音声流出によって、与党第2党であるプームジャイタイ党は、6月18日に連立政権から離脱しました。
ぺートンタン首相の連立政権はかろうじて議席の過半数を維持しているものの、他党が離脱した場合、多数派ではなくなると考えられています。
ぺートンタン首相は続投の意向を示しているものの、不信任決議によって退陣させられる可能性もあり、タイの政局に混乱を招く事態に発展しました。

国境紛争でカンボジアが受けた影響

国境紛争を巡る騒動によってタイの政局は大きく混乱していますが、カンボジアも多大な影響を受けました。
一連の事件で特に大きな影響を受けているのは、主に以下のような理由から農業・観光業・移民労働者といわれています。

  • 農業:キャッサバなど、タイへの農産物の主要輸出品目が停滞
  • 観光:国境封鎖で主要相手国であったタイからの陸路経由の観光客が激減
  • 移民労働者:カンボジアからタイの移民労働者に帰国(帰国者の受け入れや雇用に対する不安)

問題の長期化によって物流の大動脈である南部経済回廊が十分に機能しなくなった場合、カンボジア国内経済により大きな影響があると考えられています。
カンボジア国内の経済が停滞した場合、不動産などにも影響を及ぼすかもしれません

また、タイ・カンボジア間の対立による経済の停滞が、ASEAN圏内にも波及する可能性が指摘されています。

カンボジア滞在時にむやみに国境付近に立ち寄るのは危険

今回の紛争に限らず、カンボジア滞在時に特定の目的がなく、国境付近に立ち寄るのはおすすめできません。
カンボジアの国境には画定が曖昧な部分があり、国境付近に接近することで重大な問題に発展する可能性があります

寺院など特定の建造物の領有権を巡る対立もあり、国家間のセンシティブな問題に興味本位に関与することは避けるべきです。
国境付近で領土侵犯による身柄の拘束を受けた場合、国家間の政治的な事情によって、以後の処遇が厳格になる可能性があります。

カンボジアの国境付近には、過去の内戦によって地雷や不発弾が埋没されている箇所もあり、直接的な身体の危機に晒されるリスクもあります。

カンボジア不動産を購入する際は外国人への規制に注意が必要

カンボジアでは隣国との国境に曖昧な部分があるため、外国人は国境から30㎞未満に位置する物件の購入が禁止されています。
そのほかにも、カンボジアでは外国人の不動産購入に以下のような規制を設けています。

  • 外国人が購入できるのは建物の2階以上で、地下・1階は購入不可
  • 外国人が購入できるのは建物の延べ面積の70%以下(全外国人・外国企業の合算である点に注意)
  • 外国人が購入できるのは2010年以降に建設された物件のみ

カンボジアで不動産を購入する際は、希望する物件が規制事項に該当していないかを念入りに確認しておきましょう。

カンボジア不動産を個人エージェントから購入するのはハイリスク

カンボジアでは個人エージェントを介した不動産の購入も可能ですが、個人を経由した不動産取引には高いリスクが伴いやすいので注意が必要です。
個人エージェントによる不動産仲介は、コミッション(販売手数料)の獲得を主目的にしたケースが多く、購入後のフォローはあまり意識されていないことが少なくありません。
また、一過性のコミッションを得たいために、収益性の低い物件や外国人に対する規制に抵触する物件であっても仲介することも考えられます。

カンボジア不動産は管理が杜撰で、入居者の家賃滞納や建物の清掃・修繕への対応が不十分なケースも多くあります。
個人エージェントが物件購入後のサポートを提供しておらず、購入者がトラブルに自力で対応しなくてはならないことが珍しくありません

実際に弊社のお客様にも個人を経由してカンボジアの物件を取引したものの、アフターサポートがないためにトラブルに対処できず、困惑されてしまった方がいらっしゃいます。

カンボジア不動産投資を安全に行うならアンナアドバイザーズ

弊社は創業から十数年、カンボジアで多数の物件を仲介した実績がございます。
弊社はお客様の資産形成を長期間にわたってサポートすることを目的としており、不動産購入後の収支シミュレーションなどをお客様の立場に合わせてご提供しております。

物件の管理にも注力しており、トラブルへの対応のほか、物件の資産価値を長期間にわたって維持できるようにメンテナンスにも細心の注意を払っているのが特徴です。
プノンペンにもオフィスを設置しており、カンボジア不動産の最新事情や国内情勢をリアルタイムで把握できる体制を構築しております

まとめ

タイとカンボジアの国境には未画定な部分があり、過去にも領有権を巡って対立した歴史があります。
2025年5月の軍事衝突は完全な解決には至っておらず、二国間での国境通過や貿易などに制限が設けられています

問題が長期化した場合、カンボジア国内の経済にも影響があると考えられており、不動産価格などにも波及するかもしれません。
カンボジアで不動産投資や現地ビジネスをお考えの方は、今後の情勢を慎重に観察する必要がありそうです。

弊社ではカンボジア不動産の仲介を行っておりますが、プノンペンにもオフィスを設置して現地の動向を常に把握できる体制を構築しております
カンボジア不動産でお悩みのある方は、ぜひ弊社にご相談ください。

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荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
   はじめての海外不動産投資