2024年カンボジア経済発展 気になる4つのニュースPart 1

執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

カンボジアは現在、経済発展やインフラ整備、国際関係の強化に向けてさまざまな取り組みを進めています。今回は、最新の動きとして注目される4つのニュースをご紹介します。

  • カンボジア政府 2025年の予算支出を93億ドルに削減
  • 日本の大手企業5Gネットワーク拡張工事を実施
  • 2050年までに高所得国にする戦略を首相が説明
  • ホンダ、カンボジアでの事業拡大を発表

政府の予算政策から、国内外の企業の活動、さらに未来に向けた国家戦略まで、カンボジアの今を映し出す重要なトピックをお伝えします。

カンボジア政府、2025年の予算支出を93億ドルに削減

カンボジア政府は2025年の国家予算案において、総予算支出を93億ドルに削減する計画を発表しました。
この決定は、世界経済の減速や国際的な金融状況の変化が国内経済に与える影響に対応し、財政の持続可能性を確保することを目的としています。

ここでは、この予算削減の背景、詳細、影響について解説します。

背景:カンボジア経済の現状と課題

カンボジア経済は過去数十年にわたり、観光、繊維産業、農業を主要な柱として成長を遂げてきました。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックや、地政学的な緊張の高まりなどが経済に深刻な打撃を与えました。
これに加え、主要輸出先であるアメリカや欧州連合(EU)の需要減少が繊維産業に影響を及ぼし、観光業も回復基調にあるものの、パンデミック前の水準には戻っていません。

2024年時点でのカンボジアの経済成長率は5.6%と予想されており、これは東南アジア地域内では比較的堅調な数字ですが、パンデミック前の7%台と比較すると低迷しています。このような状況を踏まえ、政府は財政支出の見直しに踏み切りました。

93億ドルの予算削減計画:その内容とは?

2025年の国家予算案によると、カンボジア政府の支出計画は以下のように再編されます。

  1. 社会福祉分野への重点配分
    教育、医療、貧困対策に引き続き重点が置かれる予定です。具体的には、基礎教育の拡充と、地方における医療施設の整備が優先課題とされています。これにより、社会的弱者への支援を維持しつつ、経済基盤の安定化を図ります。
  2. インフラ整備予算の最適化
    過去数年で急速に進められてきた道路や橋梁の建設プロジェクトについて、政府は優先順位を見直し、一部のプロジェクトを延期または中止するとしています。この調整により、短期的な支出を抑える方針です。
  3. 防衛および治安維持費の抑制
    防衛予算も一定の削減が見込まれています。これには、兵器購入費の削減や軍事関連施設の新規建設の停止が含まれます。
  4. 国際援助の依存軽減
    カンボジアは長年にわたり国際的な援助に依存してきましたが、政府は自主財源の拡大を目指し、税制改革や新たな歳入源の確保に取り組む予定です

財政削減がもたらす可能性のある影響

カンボジア政府の財政削減計画は、国内外でさまざまな議論を呼んでいます。
【ポジティブな影響】

  1. 財政の健全化
    予算削減により、政府債務の拡大を防ぎ、財政の持続可能性が向上すると期待されています。これにより、国際的な信用力も強化される可能性があります。
  2. 経済の多角化
    必要不可欠な分野への投資を優先することで、観光や繊維産業に依存しない経済の多角化が促進されると考えられています。

一方で、短期的には国内経済への負担が避けられないとの見方もあります。
【懸念されるリスク】

  1. 公共サービスの質低下
    教育や医療分野への配分が維持される一方で、その他の公共サービスが削減される可能性があります。これにより、地方住民や低所得層が影響を受ける懸念が高まっています
  2. 雇用への影響
    インフラプロジェクトの見直しにより、建設業を中心とした雇用機会の減少が予想されます。

専門家の見解と提言

経済専門家や国際機関は、カンボジア政府の取り組みを慎重に評価しています。一部の専門家は、今回の予算削減が中長期的には経済安定につながると評価しつつも、短期的な社会的影響に対する緩和策が必要だと指摘しています

例えば、国際通貨基金(IMF)は、カンボジアが税制改革を進め、歳入の増加を図ることが重要であると提言しています。また、地方自治体や非政府組織(NGO)の協力を得て、貧困層への直接支援を強化するべきだとしています。

今後の展望

2025年の予算削減が実施されれば、カンボジアは経済構造の転換を図る大きな一歩を踏み出すことになります。ただし、この取り組みが成功するかどうかは、政策の実行力や国民の協力にかかっています

政府は予算削減による影響を最小限に抑えるため、透明性を高め、国民への説明責任を果たす必要があります。また、国際社会との連携を深め、持続可能な経済成長を実現するための支援を引き続き受け入れる姿勢も求められるでしょう。

出典
Business Partners Asia:カンボジア政府、2025年予算を93億ドルに削減[経済]
カンボジア・プノンペンの生活情報サイトポステ:カンボジアの経済成長、25年は6.3%の予測
Khmer Times:Govt cuts 2025 budget expenditure to $9.3 billion


日本の大手企業5Gネットワーク拡張工事を実施

日本の大手通信企業であるNTTドコモと日本電気(NEE)が、カンボジアにおける次世代通信技術、5Gネットワークの拡張工事を開始しました。このプロジェクトは、カンボジア政府との連携のもと、同国の通信基盤を強化するための大規模なインフラ整備計画の一環です。

カンボジアは近年、急速な経済成長を遂げており、デジタル化への移行が急務となっています。今回のプロジェクトは、カンボジア国内のインターネット環境を改善し、経済活動を活性化させると同時に、日本とカンボジアの関係をより深める重要なステップと位置づけられています。

カンボジアにおける5G需要の高まり

カンボジアは東南アジアの中でも比較的小規模な市場ですが、インターネット利用者数は着実に増加しており、特にモバイルインターネットの需要が急激に伸びています。現在、人口の約70%がスマートフォンを使用しており、eコマースやオンラインエンターテインメントの拡大が進んでいます。
しかし、通信インフラの整備が遅れている地域も多く、特に地方部では高速インターネットの利用が難しい状況です。

5Gネットワークは、このような地域格差を解消し、教育や医療分野でのテクノロジー活用を進めるカギとなります。
また、製造業や物流業界でも、5Gの高速通信が業務効率化に貢献することが期待されています。

日本企業の技術力と信頼性

今回のプロジェクトを主導するNTTドコモと日本電気(NEE)は、日本国内外での通信インフラ整備において豊富な経験を持つ企業です。特に、高速通信技術と耐久性に優れた設備設計で知られており、その実績がカンボジア政府からの信頼を獲得しました。

同社は、カンボジア国内の主要都市であるプノンペンやシェムリアップ、そして新興都市であるシアヌークビルを中心に5G基地局を設置する予定です。この計画により、都市部だけでなく、地方の中核地域にも高速通信が行き渡ることが目指されています。

また、日本の政府系機関である「国際協力機構(JICA)」も、このプロジェクトを資金面で支援しており、民間と公的機関が連携する形で実現されています。このような協力体制は、日本の技術力を国際社会にアピールする良い機会でもあります。

期待される社会的・経済的影響

5Gネットワークの普及は、カンボジアの社会と経済に多大な影響をもたらすと予想されています。以下に、具体的な効果をいくつか挙げてみましょう。

  1. 教育へのアクセス向上
    地方部の学校では、インターネット接続が不十分なため、オンライン教育の利用が限定的でした。しかし、5Gの導入により、遠隔教育プログラムが広がり、教育の機会が均等化されることが期待されます。
  2. 医療サービスの拡充
    遠隔医療が可能になることで、地方部の住民も質の高い医療を受けられるようになります。特に、診断や治療のスピードが向上し、医療格差の是正につながるでしょう。
  3. ビジネス環境の強化
    5Gの高速通信は、スタートアップや中小企業が新しいデジタルサービスを展開するための基盤となります。これにより、カンボジア国内のビジネス環境が一層活性化され、外国からの投資誘致にもつながります。

日本企業がもたらす長期的な影響

このプロジェクトは、単なる通信インフラの整備にとどまらず、カンボジアの持続可能な発展を支える基盤作りにも貢献します。さらに、日本企業がカンボジア市場で成功を収めることで、他の日本企業も同国への進出を検討する契機となるでしょう。

また、技術移転や人材育成の面でも、大きな波及効果が期待されています。現地の技術者を育成し、プロジェクト終了後も持続的に運営できる体制を整える予定です。これにより、カンボジアの通信業界全体の競争力が向上することが見込まれています。

おわりに

今回の5Gネットワーク拡張工事は、日本とカンボジアの経済的・技術的な連携を象徴するプロジェクトです。日本企業の技術力と信頼性が、カンボジアのデジタル社会への移行を支える大きな柱となるでしょう。そして、この協力が将来的に両国のさらなる発展と繁栄をもたらすことを期待しています。

このプロジェクトが順調に進むことで、カンボジア国内の人々がどのような変化を体感し、日常生活がどのように向上するのか、今後の進展に注目です。

出典
カンボジア・プノンペンの生活情報サイトポステ:NTTドコモとNEC、5Gネットワーク基盤を構築
Khmer Times:Japanese IT giants to lay 5G network expansion in Cambodia


2050年までに高所得国にする戦略を首相が説明

カンボジア政府は、2050年までに高所得国への到達を目指す包括的な戦略を発表しました。プノンペンで行われた記者会見で、首相は「カンボジアの未来を切り開くため、経済、教育、インフラ、ガバナンスといった分野で抜本的な改革を進める」と述べ、具体的な政策を示しました。以下、戦略の詳細をお伝えします。

経済の多様化と産業高度化を推進

現在、カンボジア経済は農業、縫製業、観光業を中心に成り立っていますが、これらの分野だけでは外部の経済変動に対する耐性が低いと指摘されています。そのため、経済の多様化と産業高度化が必要不可欠です。

首相は、製造業の革新を掲げ、次のように述べました。
「カンボジアは、低コストの労働力に依存する経済モデルから脱却し、高付加価値産業を育成する必要があります。我々は、技術革新と外国投資を通じて新たな成長エンジンを構築します。」
具体的には、以下の施策が示されました。

  • 電気機器、電子部品、バイオテクノロジー分野の新規投資誘致
  • 国内中小企業を対象とした技術支援プログラムの創設
  • ASEAN域内での産業競争力を高めるためのインフラ投資

また、農業については、「スマート農業技術の導入や農産物の高付加価値化を通じて、競争力を強化する」としています。

人材育成と教育の質向上に重点

持続可能な発展を支えるためには、高度な技能と知識を持つ人材が必要です。首相は「教育への投資は未来への投資であり、これこそが国家の発展を支える柱です」と強調しました。
カンボジア政府が掲げた教育改革には以下のポイントがあります。

  • STEM教育の強化:小学校から高等教育まで、科学、技術、工学、数学(STEM)分野の教育を拡充
  • 職業訓練の充実:国内外の企業と連携し、労働市場に即した技能訓練プログラムを実施
  • 女性教育の推進:女性が教育や労働市場で活躍できるよう、奨学金制度や支援プログラムを拡充

さらに、英語力とデジタルスキルの普及も目指します。特に、地方の若者にデジタル教育を普及させることで、都市部と地方部の格差を縮小する方針です。

インフラ整備と都市開発の加速

高所得国への道筋を確実にするため、インフラの整備は欠かせません。首相は「地方と都市をつなぐ交通ネットワークやエネルギーインフラの整備を通じて、全ての国民に機会を提供します」と述べました。
カンボジア政府は次のプロジェクトを優先的に進めると発表しました。

  • 全国的な高速道路網の拡大
  • 鉄道の近代化および物流ネットワークの効率化
  • 再生可能エネルギーの普及とエネルギー自給率の向上

また、持続可能な都市開発においては、廃棄物管理システムの改善やグリーンエネルギーを活用したエコ都市計画が含まれています。

信頼性の高いガバナンスと国際連携の強化

外国投資を呼び込むためには、透明性の高いガバナンスが不可欠です。首相は、「法制度の整備を通じて、投資家が安心してビジネスを展開できる環境を提供します」と明言しました。
具体的な施策として、以下が挙げられました。

  • 汚職撲滅のための厳格な法制度の導入
  • 司法改革を通じた法の支配の確立
  • 国内外の企業に対する税制優遇措置の明確化

さらに、ASEAN加盟国としての地域連携を強化し、欧米諸国や日本など主要経済圏との自由貿易協定(FTA)の締結を進める計画です。

目標実現に向けた首相の決意

首相は記者会見の締めくくりに、国民に向けて次のように語りかけました。
「2050年までにカンボジアを高所得国にするという目標は、私たち全員の努力によって実現可能です。この挑戦には時間と忍耐が必要ですが、未来の世代が誇れる国を作るために、私たちは共に前進します。」

カンボジア政府の発表した戦略は、長期的なビジョンと具体的なアクションプランを備えています。今後、この計画がどのように実行され、成果を挙げていくのかが注目されます。

出典
カンボジア進出ガイド:首相、2050年までにカンボジアを高所得国にするための戦略を明示
カンボジア・プノンペンの生活情報サイトポステ:高所得ビジョン達成への道、5つの首相提言
Khmer Times:PM spells out strategies to make Cambodia high-income by 2050


ホンダ、カンボジアでの事業拡大を発表

世界的な自動車メーカーであるホンダが、カンボジア市場での事業拡大計画を正式に発表しました。この発表は、首都プノンペンで行われた記者会見で明らかにされ、同国の経済成長とモビリティ需要の高まりを背景にした戦略的な決断とされています。

カンボジア市場の重要性

カンボジアは近年、ASEAN地域で注目される成長市場として脚光を浴びています。経済成長率は過去10年間で平均7%を超える勢いを維持しており、インフラ整備や都市化の進展が加速しています。また、若い人口構成や中間層の拡大によって、オートバイや自動車などのモビリティ需要が急速に高まっています。

ホンダはカンボジアにおいて長年オートバイ販売を展開してきましたが、今回の事業拡大は、自動車分野での存在感を一層強化する狙いがあると見られます。同社は、環境に配慮した新型モデルの導入や、サービスネットワークの拡充を通じて、カンボジア市場でのシェア拡大を目指すとしています

記者会見での発表内容

プノンペン市内のホテルで開催された記者会見では、ホンダのカンボジア法人代表者が登壇し、事業拡大に関する具体的な計画が説明されました。主なポイントは以下の通りです。

  1. 新型車種の投入
    カンボジア市場向けに設計された燃費効率の高いモデルや、環境に優しいハイブリッド車を投入予定であることが発表されました。この取り組みは、同国の交通インフラに適応しつつ、持続可能なモビリティの実現を目指したものです。
  2. 販売ネットワークの拡充
    ホンダは、全国に広がる販売店舗をさらに拡大し、地方都市へのアクセスを強化する計画を示しました。これにより、地方の潜在顧客層にもアプローチが可能となります。
  3. アフターサービスの強化
    カスタマーサポートとメンテナンス体制の充実を図るため、新たなサービスセンターの設立や、現地スタッフの研修プログラムを拡充する方針も明らかにされました。
  4. 環境への配慮
    環境規制が緩やかなカンボジア市場においても、ホンダは自社の国際基準を適用する方針を掲げています。特に、低公害車やエネルギー効率の高い製品を提供することで、環境への負荷軽減を目指しています

地域経済への影響

ホンダの事業拡大は、同社にとってのビジネス機会の増大だけでなく、カンボジアの地域経済にも多大な恩恵をもたらすと期待されています。同社は、現地雇用の創出や技術移転を通じて、地元社会に積極的に貢献する意向を示しました

特に、現地の若年労働者に対する技術研修プログラムは、カンボジアの人材育成にとって重要な役割を果たすとされています。また、部品調達の一部をカンボジア国内のサプライヤーから行うことで、地元企業の成長を支援する計画もあります。

消費者の反応と期待

今回の発表を受け、カンボジアの消費者やビジネス界からは早くも期待の声が上がっています。同国の若者を中心とした中間層は、品質や信頼性で高い評価を得ているホンダ製品に強い関心を寄せています。特に、低燃費や環境性能が重視される中、ホンダの新型車は多くの需要を喚起する可能性があります。

一方で、地元市場特有の課題も残っています。例えば、交通インフラの未整備や、自動車購入時の金融サービス不足などです。これに対し、ホンダは地元パートナー企業と協力し、金融サービスの拡充やインフラ整備支援を模索しているとされています。

今後の展望

ホンダのカンボジア事業拡大は、単なる市場進出の枠を超え、地域社会や環境への影響を考慮した包括的な取り組みであるといえます。この計画が成功すれば、カンボジア市場でのホンダの地位はさらに強固なものとなり、ASEAN全体でのプレゼンス向上にもつながるでしょう。

カンボジア政府も今回の発表を歓迎しており、外資誘致を推進する中でホンダのようなグローバル企業の進出は、同国の経済発展における重要な一歩となると評価されています
ホンダの今後の動向が、カンボジア市場と地域全体にどのような影響を与えるのか、引き続き注目が集まります。

出典
カンボジア・プノンペンの生活情報サイトポステ: ホンダ、カンボジアでの事業拡大
カンボジア・プノンペンの生活情報サイトポステ: カンボジアのEV車導入が急増、30年までに+3万台を目標
Khmer Times:Honda eyes new investments in the Kingdom

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荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社

代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
   はじめての海外不動産投資