執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
「海外不動産を所有すると節税効果を期待できる!」
このような理由で海外不動産投資は盛り上がっていましたが、2020年度の税制改革により節税に大きな影響がありました。
そこで本記事では、税制改正の内容と注意点を解説します。
海外不動産投資のポイントもあわせて紹介するので、今後海外での不動産投資を考えている方はぜひ参考にしてみてください。
海外不動産投資の税制改正の内容は?
海外不動産投資の税制改正の内容について、従来の節税スキームとあわせて紹介します。
従来の節税スキームとは?
従来の節税スキームは、海外不動産の取得等に伴って発生する減価償却費を活用したものです。
減価償却は、経年で建物の資産価値が目減りした分を経費で計上できる仕組みです。
土地は対象にはならず、建物価格をかんがみて減価償却額が決定されます。
物件を賃貸して運用する際は、建物の購入費用などの減価償却費を必要経費として算入可能です。
このとき、所得が赤字になるときは給与所得などと損益通算して課税所得を減らせます。
海外不動産のケースは、不動産の取得費をもとに減価償却を算出しますが、日本国内に在住している方が海外不動産を購入する場合は日本の税制で算出します。
また、日本の税制には簡便法という計算方法があり、耐用年数を超えた中古物件の場合新築と比較して大幅に短い償却期間を適用可能です。
具体的には、法定耐用年数の築22年を超えた木造の住宅用建物であれば耐用年数の5分の1を減価償却できます。
短期間で減価償却をおこなうと減価償却の金額を大きく計算でき、それらは日本での所得と損益通算可能です。
結果、高額な中古不動産を購入して赤字を発生させることにより日本での所得税額や所得税率を抑える行為が流行しました。
海外には中古建物もリノベーションして住むという価値観があり、不動産市場には中古不動産でも資産性のある物件が数多く存在します。
そのため、減価償却費を大きく計上して節税によるメリットを受けながら資産価値のある不動産を保有することができていました。
税制改正により減価償却による損益通算ができなくなった
減価償却による損益通算をおこなえることが魅力だった従来の節税スキームですが、税制改正により状況が変わりました。
2020年度(令和2年度)の税制改正により、海外の物件を取得あるいは建築する際の損失の取り扱いに制限が加わり、減価償却による損益通算が不可能になったのです。
2021年以降の確定申告で、海外不動産の減価償却費計上による赤字申告はできなくなりました。
従来の節税スキームは活用できなくなったのです。
法人の場合は従来の節税が可能
従来の節税スキームが使えなくなったのは、実は個人の方のみです。
税制改正は個人を対象にしており、法人は今までどおり従来の節税スキームを活用できます。
そのため、法人は今までどおり節税目的で海外不動産を持つことができるのです。
減価償却を計上すれば、当該年度の法人税を減らせます。
節税以外で考えたい海外不動産投資のポイント
節税以外でも考えておきたい海外不動産投資のポイントは、大きく3つあります。
- キャピタルゲイン・インカムゲインを得る
- 複数の不動産を分散所有する
- 所有している不動産を法人化する
上記の詳細を確認しましょう。
キャピタルゲイン・インカムゲインを得る
海外不動産投資をする際は、キャピタルゲインとインカムゲインの両方を考える必要があります。
日本では家賃収入によるインカムゲインが主流ですが、海外ではインカムゲインに加えてキャピタルゲインも狙えるのです。
国外の不動産を安く仕入れることで家賃収入による利回りも高くなり、毎年安定したインカムゲインを期待できます。
一方、米国などの先進国と比べて物件価格が比較的安い、東南アジアは投資家からも注目を集めています。
ベトナムやカンボジアなどは経済成長を背景として不動産価格の値上がりが期待できるため、投資先として人気です。
短期間で大きな利益を享受できるキャピタルゲインが狙えます。
海外不動産投資において、キャピタルゲインとインカムゲインを考慮しないのは将来の収益を減らしてしまう可能性があります。
複数の不動産を分散所有する
海外不動産投資をする際は、複数の不動産の分散所有を検討しなければいけません。
集中投資が悪いわけではありませんが、分散投資をすることでリスクを分散できます。
たとえば、米国不動産を所有しているよりも、マレーシアとアメリカの不動産を所有している方がアクシデント発生時にカバーできる可能性があります。
リスクを抑えたい方は、複数の不動産を分散して所有するのがおすすめです。
所有している不動産を法人化する
所有している不動産を法人化することも検討しましょう。
個人でももちろん不動産収入を得られます。
しかし、個人では従来の節税スキームを活用できません。
その点、会社にすれば従来の節税スキームを活用できます。
節税スキームの活用を考えている方は、法人化も選択肢のひとつです。
海外不動産投資をするときの注意点
魅力的な海外不動産投資ですが、注意点をよく理解しておくことも重要です。
大きな失敗を避けたい方は、それぞれチェックしてください。
現地の税制改正について常にアンテナをはる
海外不動産へ投資する際は、現地の税制改正大綱を把握できるように常にアンテナをはりましょう。
税制度は、時代の変化や経済状況にあわせて変わっていきます。
日本国内だけではなく現地の税制改正も常に意識することで、購入時のトラブルや確定申告書関連の問題を避けられるでしょう。
今後法律などが変わり、修繕費や管理費なども費用計上できなくなったり、法人も従来の節税スキームが利用できなくなったりするかもしれません。
海外の不動産で資産運用を考えるのであれば、現地の税制改正も気にしておきましょう。
現地とのやり取りはハードルが高い
現地とのやり取りはハードルが高いことも知っておくべきでしょう。
現地とのやり取りは、一般的に英語あるいは現地の言葉です。
不動産投資ならではの専門用語も出てくるため、理解するのは容易ではないことがデメリットといえます。
また、日本とは対応も違います。
日本の不動産会社とやり取りしている感覚でいると、大きな失敗をするかもしれません。
確定申告は複雑になる
居住者と非居住者の判定、課税方法などの確定申告が複雑になることにも気をつけなければいけません。
国ごとの基準に沿って確定申告する必要がありますが、国ごとに申告義務者の条件が違います。
どの所得までが申告対象なのか、確定申告の期限や方法など確認する項目が多く、複数の法律や制度が関わるので非常に複雑になり負担も相当大きくなることが予想されます。
確定申告についてより詳しく知りたい方は、関連記事やコラムなどにも目を通してみるとよいでしょう。
また、自分で全ておこなう必要はありません。
税金のプロである税理士法人へ相談してみるのも一つの手です。
経費や税率をはじめとした税法に詳しく、税務関連の業務を依頼できます。
しかし、依頼には費用がかかります。
無料で依頼できるわけではないので、費用対効果を考えて利用しましょう。
不安な方はプロに相談
海外不動産投資はとても魅力的ですが、専門的な知識が必要になるケースも多く不安な方もいるでしょう。
自分だけで進めることが不安な方は、海外不動産の専門家へ相談ください。
自分だけで手続きを進めると、書類に不備があるなどの問題が発生したときにうまく対処できないことがあります。
その点、専門家へ相談すればこれまで培ってきた豊富な経験やノウハウをもとに適切なサポートをしてくれるため手続きもスムーズに進むでしょう。
また、オンラインセミナーを開催している不動産会社もあります。
不動産会社ごとに得意にしているエリアがあります。
たとえば、ハワイやアメリカをメインにしている事業者もあれば、東南アジアをメインにしている事業者などです。
自分の投資先や投資目的に合う業者か判断するためにも、一度セミナーに参加してみるのがおすすめです。
気軽に問い合わせてみましょう。
まとめ
海外不動産投資は、税制改正により従来の節税スキームが活用できる条件が変わりました。
法人であればこれまで通り活用できます。
海外不動産投資は節税以外にも考慮すべき点や注意すべき点が存在します。
具体的には、現地とのやり取りのハードルが高かったり、確定申告が複雑になったりするので注意が必要です。
海外不動産投資を検討している方は本記事を参考にし、考え方や方針を決めて挑戦してみてください。
荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資