執筆者:荒木 杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
日本人の移住先として人気のあるオーストラリア。
海外不動産投資の候補として考える人も多いのではないでしょうか。
しかしオーストラリア不動産には、外国人に対する不動産取得の規制をはじめ、日本国内の不動産購入とは全く異なるルールや慣習が存在します。
この記事では、オーストラリア不動産の特徴と、税制や規制の内容について詳しく解説します。
オーストラリア不動産の現状や特徴
現在のオーストラリア不動産の特徴としては、以下の7つが挙げられます。
(1) 移民政策により人口が増えている
オーストラリアは、移民政策により総人口が増えている国です。
オーストラリアでは出生率の低下が続いていますが、それでも人口が増加し続けているのは、国をあげて海外からの移民を積極的に受け入れているからです。
オーストラリアの総人口は、2005年時点では2,018万人でしたが、2022年には2,601万人にまで増加しており、今後も堅調に推移すると予想されています。
(2) 住宅価格が高騰している
オーストラリアでは、2020年に起こったコロナショックの収束をきっかけに、居住用の不動産価格が高騰しています。
特に、パンデミックにより帰郷、もしくは郊外に移住していた人々が都心部に戻ってきたことで、シドニーなど主要都市の住宅需要が増加し、物件価格を押し上げています。
(3) シドニーの表面利回りは「約3%」
オーストラリア最大級の都市であるシドニーの場合、不動産の表面利回りは3%前後が相場だといわれています。
そのため、経費や税金を差し引いた実質利回りはさらに低くなると考えられます。
(4) キャピタルゲイン税と所得税の税率が高い
オーストラリアに居住して不動産投資をした場合、高い税金が課される可能性が高いです。
例えば所得税の場合、賃貸収入の金額に応じて、32.5〜45%の税金がかかります。
また、物件の売却時に利益があった場合にも、キャピタルゲイン税として32.5〜45%が課税されます。
(5) シドニーなどの都市に人口が集まっている
広い国土を持つオーストラリアですが、人が居住できるエリアが限られているため、シドニーなどの都市に人口が集中しています。
不動産投資先として人気の都市はシドニーの他にも、メルボルン・ブリスベン・パースなどが挙げられます。
(6) 不動産の取引に弁護士が必要
オーストラリア不動産の取引で特徴的なのが、弁護士に依頼する必要があることです。
オーストラリアでは不動産売買の際に、売主と買主がそれぞれ弁護士を選任し、弁護士が契約内容の説明を行うことで、取引の安全性の確保に努めます。
(7) 「ヘリテージ・リスト」の物件に注意が必要
オーストラリア不動産を購入する場合、ヘリテージ・リストについて理解しておく必要があります。
ヘリテージ・リスト(直訳すると「遺産リスト」)とは、歴史的に価値のある建築物をまとめたリストです。
歴史的建築物を保存する目的で作成されており、このリストに掲載された物件は増改築が禁じられているため、購入時に確認した方がよいでしょう。
オーストラリア不動産について
オーストラリア不動産を取引する際に、知っておくべき制度を3つ紹介します。
(1) 土地・不動産の所有権について
オーストラリアには「全ての土地は君主が所有している」という概念があり、個人の土地の所有を認めないことになっています。
しかし実際は、土地を自由に使用・売却・賃貸できる「自由保有権(Freefold)」という、所有権と変わりない権利が認められています。Freefoldは永住者だけでなく、非居住者である外国人が持つことも可能です。
なお、建物は土地に付随するものと考えられているため、土地と建物が別々に譲渡されることはほとんどありません。
(2) 土地・不動産の登記について
オーストラリア不動産には、トレンス・システムという土地の登記制度があり、登記をすることで自分の土地であると法的に主張できるようになります。
また、2023年7月より、非居住者の外国人がオーストラリア国内の土地を取得した場合には、税務局に登記通知を提出することが義務付けられました。
(3) 不動産の鑑定評価制度について
オーストラリア不動産の鑑定評価は、日本の不動産鑑定士にあたる「CPV認定鑑定士」によって行われます。
鑑定には「Sales Comparison Approach」「 Income Capitalisation Approach」「Cost Approach」の3つの評価手法のうち、少なくとも1つ以上を用いて行うことになっています。
オーストラリア不動産の税制について
オーストラリア不動産に関する、以下の3つの税制について解説します。
(1) 不動産を取得するときの税制
オーストラリア不動産を取得する際には、不動産取得に関わる契約書類などに対して印紙税がかかります。
印紙税の税額や課税対象は州によって異なり、買主が支払うのが一般的です。
また、一部の州では、外国人が不動産を取得する際には追加の印紙税を課すよう定めているケースもあります。
(2) 不動産を保有するときの税制
オーストラリア不動産を保有する場合に、かかる可能性のある税金は「土地税」「地方税(レイト)」です。
「土地税」「地方税(レイト)」の税率や課税条件は州によって異なります。
特に土地税に関しては、払わなくてよいケースがあったり、逆に外国人所有の場合は追加で課税されるケースがあったりするなど、物件の場所や状況により大きな違いがあります。
(3) キャピタルゲイン税などその他の税制
オーストラリア不動産を売却して、売却益(キャピタルゲイン)が発生した場合、その絵利益に対して課税されるのが「キャピタルゲイン税」です。
キャピタルゲイン税の税率は累進課税で、32.5〜45%が課されます。
ただし、オーストラリア国内の居住者が、自宅として使用している居住用不動産を売却した場合には、キャピタルゲイン税はかかりません。
また、不動産を賃貸に出した場合に得られる「家賃収入」に所得税がかかります。
税率は家賃収入の額に応じて、32.5〜45%の間で決まります。
ただし、所有者が日本在住の日本人なら、オーストラリアで支払った税金を日本国内で控除できる「外国税額控除制度」を適用できる場合があります。
外国の投資家に対する規制
オーストラリア不動産の外国人投資家に対する規制について、5つ紹介します。
(1) 外国人は豪州外国投資審査委員会(FIRB)の規制が適用される
非居住者の外国人がオーストラリア不動産を取得する際には、豪州外国投資審査委員会(FIRB)の許可を得る必要があります。
許可の申請をしなかった場合や、FIRBの定めるルールに従わなかった場合、罰金などの処罰の対象になるので注意が必要です。
ただし、オフィスビルなど、居住用ではない不動産はFIRBの規制対象外です。
(2) 非居住者は基本新築物件のみ
非居住者の外国人が購入できるオーストラリア不動産は、原則として新築物件のみとされています。
また、完成前の新築物件については、外国人が全販売戸数の50%を超えて購入することは禁じられています。
ただし、商業用不動産はFIRBの規制対象外のため、中古物件を購入しても問題ありません。
(3) FIRBが指定した特別区なら中古も可能
非居住者の外国人がオーストラリアで購入できる居住用不動産は、原則新築物件のみですが、例外としてFIRBが指定した特別区内であれば、中古物件でも購入可能です。
特別区に指定されているのは、主にリゾートエリアです。
賃貸経営を考えている場合、リゾートエリアのコンドミニアムなどであれば、購入できる不動産の幅が広がるでしょう。
(4)「居住者」はビザが切れるタイミングで売却する必要がある
オーストラリアの居住している外国人が不動産を取得した場合、ビザが切れるタイミングで不動産を売却しなければならないという決まりがあります。
物件を保有し続けるには、「ビザを延長する」「FIRBの許可を取る」「永住権を取得する」のいずれかを実現させる必要があります。
(5) 融資は基本できない
非居住者がオーストラリア不動産を購入する場合、銀行からの融資は期待できません。
オーストラリアに限らず、投資などの目的で海外不動産を購入しようと融資を打診しても、銀行の審査基準が非常に厳しく、通らない可能性が非常に高いからです。
仮にローンを組めたとしても、融資金額が少なく、購入資金の多くを自己資金でまかなうことになるでしょう。
オーストラリア不動産を購入するときの費用
オーストラリア不動産を購入する際にかかる費用を、以下にまとめました。
※記載した金額は全て目安です。
- 印紙税 … 州により異なる
- 外国人取得税 … 州により異なる(かからない場合もある)
- 登記費用 … 約1,000豪ドル〜
- 外国人取得申請費 … 約5,500豪ドル〜
- 弁護士費用 … 約2,000豪ドル〜
- 建物・害虫調査費用 … 約400豪ドル〜
- バイヤーズエージェント費用 … 取得価格の3%〜(中古物件、再販物件の場合)
実際に購入するときの流れ
実際にオーストラリア不動産を購入する際の流れは、以下の通りです。
- 購入申込書の提出 … 物件を仮押さえする
- 申込金の支払い
- 買主が契約書に捺印 … 買主が選定した弁護士が、買主へ契約内容を説明する
- 売主が契約書に捺印 … 売主が選定した弁護士が、売主へ契約内容を説明する
- 手付金の支払い … 買主が、不動産会社または弁護士が指定する信託口座へ入金する
- 物件調査 … 弁護士が権利関係を確認する・専門業者が建物調査をする
- 残金の決済・物件の引き渡し … 残金の受領や鍵の引き渡しは双方の弁護士間で行う
- 登記移転手続き … 弁護士が手続きする(30日間程度かかる場合もある)
まとめ
この記事では、オーストラリア不動産の特徴と、不動産取引に関わる制度や規制などについて詳しく解説しました。
オーストラリア不動産の取引は、日本の不動産取引と異なる点が多く、知識がないまま購入を進めてしまうと、失敗に繋がるかもしれません。
不動産業者や弁護士に任せきりにせず、自分でも情報収集をして、安全に不動産取引ができるよう努めましょう。
荒木杏奈 / アンナアドバイザーズ株式会社
代表取締役 / 宅地建物取引士 / 宅地建物取引業 東京都知事免許(2)第99967号
所属団体:一般社団法人RE AGENT 理事長 / 一般社団法人東京ニュービジネス協議会(NBC) / 公益社団法人全日本不動産協会
1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店セプテーニ(株)入社、その後SBIグループを経て2012年よりカンボジアの首都プノンペンの金融機関に勤務。2013年に独立し日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の国際不動産サービスを展開。
著書:東南アジア投資のラストリゾート カンボジア (黄金律新書) 新書 幻冬舎
はじめての海外不動産投資